遺産分割によって私は5,000万円取得しました。その後、税務調査が入り、遺産総額が1億円増えました。その1億円は兄が取得したのですが、私の相続税額まで増えてしまいました。なぜでしょうか?
日本では、相続税の課税方式として、遺産課税方式と遺産取得課税方式の折衷方式が採られているからです。そのために、例えば、遺産分割後に新たに財産が見つかった場合、それを取得しない者も税額が上がる可能性があるというような問題点が存在します。
1.遺産課税方式とは
遺産課税方式とは、被相続人の財産総額に対して相続税を課税する方式をいいます。課税されるのは、財産を取得した相続人ではなく、財産を遺した被相続人です。アメリカ合衆国ではこの方式が採用され、相続が発生した場合、先に財産から税金を徴収し、残りを相続人の間で分配することになります。
(1)メリット
相続人の間でどのように財産が分配されたとしても、全体の相続税額は変化がないので、課税の公平を図ることができます。例えば、遺産総額が同じ10億円のA家とB家であれば、税額は全く同じになります。
(2)デメリット
同じ取り分でも、例えば、被相続人の遺産総額が1億円のC家の相続人が1,000万円取得したときと、遺産総額が10億円のD家の相続人が1,000万円取得したときでは、税額が変わってきます。同じ金額しか取得していないのに、D家の相続人の税額が重くなり、不公平です。
2.遺産取得課税方式とは
遺産取得課税方式とは、相続人が取得した財産の価額に対して課税する方式をいいます。課税され
るのは、財産を取得した相続人です。
(1)メリット
相続した財産の価額に比例して税負担が増えるので、課税の公平を図ることができます。
(2)デメリット
遺産分割のやり方次第で、例えば、相続人1人で全額取得したときと、10人が均等に分けたときでは、相続税の総額が変動します。したがって、同じ10億円の遺産総額があるA家とB家間でも、被相続人ベースでは税負担が不公平になる可能性があります。
3.1と2の折衷方式を採用している理由
日本では、
・相続税の総額を計算するときは、1の遺産課税方式の考え方によっています。
・各人に相続税額を配分するときは、2の遺産取得課税方式の考え方によっています。
これは、主として2(2)のデメリットをなくすためですが、逆に1(2)のデメリットが出現します。そのため、税率が上がると、一見無関係なこの弟さんまで税額が上がってしまうこともあり得るのです。
近年では、環境の変化・格差社会等の視点から、相続税の課税方式について、遺産課税方式や遺産
取得課税方式に見直しを図ろうとする動きも存在しています。