‘相続税の軽減措置’

Q.相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらない場合には、配偶者の税額軽減等の適用を受けることができないのでしょうか?

 

A.相続税の申告期限までに遺産分割が行われず、未分割のままで申告書を提出するのであれば、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することが大切です。この分割見込書を提出すると、申告期限後3年以内に遺産分割がなされた場合には、配偶者の税額軽減小規模宅地等の特例の適用を受けることが可能です。

ちなみに、農地等の納税猶予については、申告期限までに分割されている必要がありますので、留意が必要です。

Q.配偶者の税額の軽減というのは、どのような制度でしょうか?

 

A.配偶者が相続財産のうち正味財産額1億6,000万円か法定相続分のいずれか多い金額まで相続財産を取得した場合、その配偶者に相続税は課されません。仮に、夫・妻・子という家族構成であるとします。この場合に夫が死去したら、妻の法定相続分は2分の1となり、妻は相続財産の2分の1を相続したとしても、納付税額はゼロとなります。
妻は夫の財産形成に半分貢献したとみなされますので、相続税について妻は優遇されているのです。

配偶者の税額の軽減の適用を受けることができる財産は、相続税の申告期限までに遺産分割等によって実際に配偶者が取得したものに限定されるのが原則です。ただし、申告期限までに遺産分割がなされなかった財産についても、申告期限より原則として3年以内に分割した場合は、適用を受けることが可能です。

なお、相続財産の一部か全部を、仮装隠ぺいによって申告しているか申告していなかった場合に、その後の税務調査においてその事実が明らかとなり、修正申告か期限後申告を行うことになったときは、その仮装隠ぺいされていた財産についてはこの制度の対象となりません。

Q.相続税の申告期限までに遺産分割を行うことによる税務上のメリットは、何かありますか?

 

A.遺産分割に期限が設けられているわけではありませんが、相続税の申告期限まで(相続開始後10ヶ月以内)に遺産分割を行い、税務上のメリットを活かしましょう。税制上のメリットとして、以下のような制度を挙げることができます。

1.配偶者の税額の軽減
配偶者が相続財産のうち、正味財産額1億6,000万円までか法定相続分(2分の1)までの相続財産を取得した場合、その配偶者に相続税は課されません。
ただし、仮装隠ぺいにより申告しなかった財産について、後日、税務調査によって修正申告を行うことになったら、その仮装隠ぺいされた財産はこの制度の対象とはならないということに、留意が必要です。

2.小規模宅地等の特例
居住の用か事業の用に供している宅地等を相続した場合、一定の選択をしたもので一定の面積までの部分については、次の減額割合を乗じて算出した金額を評価減として、通常の方法によって評価した価額より差し引くことができます。
・特定居住用宅地等に該当すれば240㎡まで80%(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については330㎡まで)
・特定事業用宅地等や特定同族会社事業用宅地等に該当すれば400㎡まで80%
・貸付事業用宅地等に該当すれば200㎡まで50%

3.農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例
農業を営んでいた被相続人より一定の農地等を相続や遺贈により取得した相続人が、その農地等で農業を継続する場合は、一定の条件の下にその農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額は、納税が猶予されます。
その後、この納税猶予税額は、次のどれかに当てはまることになったときに免除されます。
・農業相続人が相続税の申告書の提出期限より農業を20年間継続した場合(市街化区域内農地等に対応する農地等納税猶予税額の部分に限定されます)
・農業相続人がこの特例の適用を受ける農地等の全部を農業後継者に生前一括贈与し、その贈与税につき納税猶予の特例を受ける場合
・農業相続人が死去した場合

Q.将来の相続に向けて生前にできる対策は、何かありますか?

 

A.将来の相続に向けて相続開始前にできることを以下に述べます。

1.暦年課税贈与で相続財産より分離する
110万円の基礎控除を活用し、毎年手堅く子に贈与していくといいでしょう。暦年課税贈与については、贈与者が死去した際に相続税を算出するに当たり、原則として贈与財産の価額を相続財産の価額に加算する必要はありません。
ちなみに、相続時精算課税贈与の場合は、特別控除額は2,500万円ですが、贈与財産は贈与時の価額で相続税の課税財産に算入されることになります。

2.暦年課税贈与の配偶者控除を利用して自宅を贈与する
婚姻期間が20年以上である場合において、夫婦間で居住用不動産か居住用不動産を取得するための金銭の贈与がなされたときには、基礎控除(110万円)に加えて配偶者控除(2,000万円)の適用を受けることができます。

3.収益物件を贈与する
家賃収入を得られる建物を贈与した場合には、家賃が子の収入となります。なお、贈与するのは建物のみで構わず、敷地を贈与しなければならないわけではありません。
贈与金額は、固定資産税評価額の70%となり、固定資産税納税通知書で確認することが可能です。
・贈与金額が少額となるのであれば、暦年課税贈与を行います。
・贈与金額が多額となるのであれば、精算課税贈与を行います(将来相続財産に合算されるものの、相続開始までの家賃を子に帰属させることが可能です)。
・上記のいずれでもないのであれば、複数年に分けて暦年課税贈与(共有持分の贈与)を行います。

4.退職金支給で評価を下げて自社株を贈与する
オーナー社長の引退や老齢で相続の時期が近づいている場合には、多額の退職金を社長に支給して大幅に利益を圧縮し、自社株式の評価額を引き下げます。株価が下がったところで、相続時精算課税制度を用いて後継者に贈与します。

5.小規模宅地等の特例の適用要件を確認する
小規模宅地等の特例というのは、居住用宅地につき240㎡まで(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については330㎡まで)、事業用宅地につき400㎡まで80%の評価減を、貸地等につき200㎡まで50%の評価減を受けることができるという制度です。
相続開始前に、上記の特例の適用要件を満たしておくといいでしょう。

6.孫を養子にする
養子が一人増えたら、基礎控除が1,000万円(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については600万円)増加するほか、適用税率が下がることがあります。そして、養子にしても相続財産を分配しなければならないわけではありません。法定相続人の数を増やすことに意義があるのです(法定相続人の数に含める養子の数は、一定の人数までとされています)。
また、孫を養子にした場合、相続税を1代飛ばすことができるというメリットもあります。
なお、孫を養子にした場合のデメリットは、孫の相続税額が2割加算となることです。

7.預金ではなく生命保険で残す
生命保険金は指定した受取人の固有の財産ですので遺産分割の対象とはならず、確実に受取人のものとなります。さらに、生命保険金は、500万円に法定相続人の数を乗じた額まで非課税とされています。

8.会社分割で円滑に事業承継を行う
後継者が2人存在する場合には、生前に会社を分割し、兄弟でトラブルになることにないようにしましょう。
例えば、創業者がA社の株を100%有していて、A社はa事業とb事業を行っている場合、按分型の新設分割によってB社を設立し、B社にb事業を移します。この時点でA社とB社の株を100%有している創業者は、両者の経営を見つつ、生前贈与、親子間譲渡、遺言によって、A社株式を長男に、B社株式を次男に取得させます。

9.物納の条件整備をしておく
(1)測量等を行っておく
物納申請のためでも、相続発生後に要した測量費用、境界確認費用等に、相続税の債務控除は適用されません。相続が発生する前に行っておくと、相続財産がその費用分減少しますので、相続税の負担もその分軽減されます。
(2)隣地の人と仲良くしておく
物納時には、隣地の人より境界確認の印をもらうことになりますので、隣地の人々とは日頃より良好な関係を築いておくことが重要です。

預金の払い戻しと配偶者の税額軽減についてが、わかりません。

 

<解答>
実際には、払い戻しを受けているため、「分割された財産」として「配偶者の税額軽減」の適用があるだろう(平成12.6.30裁決より)。

<解説>
(1) 法定の取り扱い
遺産については、遺言や遺産分割により、関係者や相続人に分配されるのが原則となる。ただし、預金などの可分債権においては、分割されていなかったとしても相続人が法定相続分に応じて、取得する権利が存在している。つまり、分割を行っていないとしても取得する権利が存在しているため、分割の対象から除かれるということになる。この考え方については昭和29.4.8、昭和34.6.19の最高裁判所の判決によるものになっている。
しかし、家庭裁判所の遺産分割審判においては、上記の最高裁判決を踏まえた上で、可分債権も遺産分割の対象になる取り扱いが定着していることになるため、判断は分かれるだろう。
つまり、預金などの可分債権については、最高裁判所におきましては遺産分割の対象とはならないけれども、家庭裁判所の遺産分割審判におきましては遺産分割の対象になるといえる。

(2) 配偶者の税額軽減の取り扱い
配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)は、「分割されてはいない財産」には適用されることはない。では、分割されていない預金については、配偶者の税額軽減の対象にはなるのだろうか?
(1)にあるように可分債権については、最高裁判所と家庭裁判所で取り扱いが異なることになる。そのため、可分債権であることを理由に、この預金が「分割されていない財産」が除かれるとされることには無理があるだろう。
しかし、本問の場合においては、分割は行われていないようだが、配偶者については実際に法定相続分の預金の払い戻しを受けている。配偶者については払い戻しを受けたことにより、その預金の払い戻しを受けている。配偶者については、払い戻しを受けたことによって、その預金の実質的な支配者になる。ですから「分割された財産」と同じ効力を持つことになる。そのため、この預金については「分割されていない財産」から除かれることになり、分割された財産として配偶者の税額軽減の適用を受けることが可能になる。

次に配偶者の税額軽減の適用時期を考えてみる。申告期限前に払い戻しを受けた場合においては、通常どおり配偶者の税額軽減を適用しまして、相続税の申告を行うことになるだろう。申告期限後に払い戻しを受けた場合については、払い戻しを受けた日から4ヶ月以内に行う更正の請求によって、配偶者の税額軽減を適用することになり、税額を取り戻すことが可能になる。ただし、申告期限から3年を経過した日以後においては、配偶者の税額軽減の適用自体がなくなることになるため、注意が必要になる(訴訟があった場合などは除かれることになる。)。

生命保険については、遺産分割に有効であると耳にしましたが、どのような点で有効になるのでしょうか?

 

<解答>
生命保険金につきましては、指定した受取人の固有の財産となりますため、遺産分割を行わずに、あげたい人に確実に財産を分けることが可能になるため、遺産分割を行いやすくすることが可能になります。

<解説>
(1) 相続対策として生命保険金の活用
相続対策を考えていく中で、生命保険を活用することが有効になってくると考えられます。生命保険を活用することの効果としましては、「納税資金対策」、「遺産分割対策」、「相続税の軽減対策」の大きく3つに分けられることになります。

(2) 遺産分割対策(あげたい人にお金が届く。)
死亡保険金については、保険契約上で指定した受取人の固有財産となります。したがいまして、遺産分割を行うことなく確実に受取人として指定された相続人のものとなるでしょう。また、相続放棄をしたと仮定しましても、生命保険金を受け取ることが可能となるでしょう。
例えば、相続財産としての預金1億円を長男、長女、次男で相続する場合につきましては、遺産分割協議という話し合いによりまして、どのように分けるのかを決めなければならないことに留意しなければなりません。
これでは各社の主張がぶつかりあってしまい、なかなか分割を決めることは不可能になってしまうでしょう。しかし、同じ1億円であったとしても生命保険金であれば、あらかじめ受取人を指定しておくことが可能となりますので、受取人固有の財産としまして、遺産分割協議をすることをせずとも、平等に財産を分けることが可能となるのです。
また、例えば相続財産が長男の自宅の土地1億円だけしかないといった場合においても、次男にも平等に財産を分けようとしても分ける財産が存在していないでしょう。自宅を売却すれば、資金に変えることも可能になりますが、自宅は長男が生活しておりますので、納得がいかないのも当然といえます。結果として遺産分割はうまくいかないことになってしまうでしょう。
そこで生命保険を活用するという方法があります。長男が自宅の土地を相続したと仮定しても、次男には生命保険金1億円が支払われることになります。したがいまして2人とも1億円ずつの相続財産を相続することになって、スムーズに遺産分割を進めることが可能となるでしょう。さらに、事業を承継してもらう長男に自社株や事業用不動産を継続させたい場合における他の相続人に対する活用としても有効だと考えられます。
そのほか、相続人の1人が、遺産を取得した代償としまして、他の相続人に金銭その他の財産を与える分割方法である代償分割に生命保険を活用するなどスムーズな遺産分割が実現可能となります。

(3) 納税資金対策
原則として、相続税は亡くなった日から10ヶ月以内に現金で納付しなくてはならないことになっております。相続財産の仲に相続税を払うことができるだけの現金や預貯金がなければ、相続税を支払うための準備をしなければなりません。現金や預貯金を相続税が支払うことができる額まで貯めるのに時間を要する場合につきましては、その不足分を補うために生命保険を活用することによって、相続税の納税資金を確保することが可能となるでしょう。生命保険に対しての加入については相続が起きてしまってからでは遅くなってしまうため、生前に相続人がいくら相続税を支払うのかを知って、そのうちいくら現金で納付することが可能となるのか、場合によっては不動産の売却や延納、物納も視野に入れて、生命保険金でいくら納付するべきなのか、あらかじめシミュレーションをしておく必要があると考えられます。

(4) 相続税の軽減対策
生命保険につきましては、保険金の全てに課税されるわけではないことに留意しなければなりません。被相続人の死亡によって相続人が取得された生命保険金のうち、「法定相続人1人あたり500万円」については、非課税になりまして、相続税は課税されることはないことを覚えておくと良いでしょう。生命保険に加入していないのであれば、最低限この非課税相当額につきまして預貯金を生命保険に置き換えておくことだけで、相続税の軽減対策として有効になりえます。
なお、生命保険金については相続を放棄した場合については受け取ることが可能となります。しかし、非課税の適用を受けることは不可能となってしまいますので、注意しなければならないでしょう。

(5) まとまったお金の支払いに活用
前述したとおり、被相続人が現預金として持っている場合において、相続人の間での遺産分割協議が必要になってきます。なおかつ、預貯金の場合につきましては、遺産分割協議が成立してから米議変更が行われるまでにつきましては、遺産分割協議が成立しまして名義変更が行われるまでは、凍結してしまうことになりますから、葬儀費用の支払いや病院への入院費用の支払いなど、まとまったお金を引き出そうとしても自由に引き出すことは不可能になってしまうでしょう。しかし、生命保険の場合につきましては、遺産分割を行うことなく、保険会社へ書類を提出できれば、数日間でまとまった資金を現金で準備することが可能になりまして、葬式費用や病院への支払いなどを行う際に有効となるでしょう。

(6) 保険料相当額の贈与
贈与税の110万円を基礎控除を利用することにし、子供や孫に生命保険料相当額の贈与をすることによって、生命保険を活用することが可能になりえます。
子供や孫につきましては、贈与を受けた保険料相当額によりまして、被保険者を親や祖父母とする生命保険に加入することになります。この場合につきましては、親や祖父母に相続が起きたと仮定しても、支払われる保険金につきましては、相続財産ではなく、子供あるいは孫の一時所得となることに留意しなければなりません。したがいまして、少ない税負担で納税資金を確保することが可能となりえます。
なお、この保険金に係っている税額については、
{(保険金額—保険料—50万円)×1/2}×所得税・住民税率
となりえます。

<留意点>
(1) 連年で一定金額を贈与した場合につきましては、その実質によって初年度におきまして、一括贈与をしたとみなされまして、課税される可能性も存在しています。
(2) 子供や孫が受けた金額が、110万円を超えてしまう場合につきましては、贈与税の申告および納税が必要になるでしょう。
(3) 保険料相当額の贈与につきましては、きちんとした贈与の手続きを行う必要があると考えられます。
・ 基礎控除(110万円)以上の贈与を行って、贈与税の申告を行う。
・ 生命保険料につきましては、子供や孫が支払いまして生命保険料控除の申告を行う。
・ 贈与契約書を作成する・確定日付をとる。
・ 贈与を受けている口座の通帳、印鑑の管理については、子供や孫が行う。

(4)子供や孫の所得が高い場合についてや相続財産が少額の場合につきましては、相続税額よりも所得税額の方が高くなってしまいまして、多く税金を納める場合も存在していますので、事前にシミュレーションが必要になります。

遺産分割において、遺言が有効に働くと耳にしましたが、どのような点で有効だと考えられているのでしょうか?

 

<解答>
死後におけるご自身の財産の処分を、奥様・お子様などの残された方に対して伝えるとともに、その実現を図ろうとするものが、遺言になります。遺言書がない場合については、相続人同士の遺産分割協議によって相続財産を分けることになってしまうため、争いが生じやすくなっているようです。協議がまとまらないことになってしまえば、いつまでたっても相続財産を分けることが不可能になってしまうでしょう。遺言は、このような相続人の間の争いを防ぐことが可能になるため、遺産分割に有効であると断言できるでしょう。

<解説>
(1) 遺言のメリット
相続におきまして、最も優先されることになるものについては、亡くなられた方のご意思となります。その亡くなられた方の意思を表したものが遺言となるでしょう。遺言については、遺産の具体的な配分方法の指定を亡くなられた方が可能となるため、遺産分割協議のトラブルを事前に防止することが可能となるでしょう。
また、遺産の配分方法以外にも、ご家族に対する考えや想いについても伝えてその実現を図ることが可能になると思われます。
さらに、遺言によって相続人以外の方に対しても財産を遺すことが可能となるでしょう。

(2) 遺言の必要な方
特に次のような方につきましては、遺言書を作成することがお勧めできますので、覚えておくと良いでしょう。

(一) 子供のいない夫婦
お子様のいない夫婦の相続人につきましては、お二人のご両親がすでに亡くなっている場合には、配偶者と兄弟姉妹になってしまうようです。したがいまして、夫が妻にすべての財産を遺したいと思われていたとしましても、遺言書がない場合については、兄弟姉妹についても夫の財産を相続する権利が生じてしまうことになってしまいます。兄弟姉妹がその権利を主張することになってしまいまして、遺産分割協議書に印鑑を押さない場合につきましては、妻は、夫の金融資産の名義変更や、ご自宅の相続登記さえ、行うことが不可能になってしまうことに留意すべきでしょう。兄弟姉妹と仲がよくなったとしても、相続がおきると揉めてしまうケースが多々存在しているでしょう。遺言書は残された奥様にも、そのような苦労をかけないためにも、作成した方がよいと考えられるでしょう。

(二) 相続人がいない方
配偶者、お子様、兄弟姉妹などの相続人が存在していない方につきましては、遺言書が存在していない場合に関しましても、相続財産は最終的に国に帰属することになってしまいます。もし生前に遺言書を作成することになれば、ご自身が相続後の財産の処分方法を定めることが可能となります。例えば、遺言書で指定することによって、○△協会、○×財団、学校法人などの公的な団体や法人に、ご自身の死亡後に財産をどのように遺したいのかをじっくりと考えまして、遺言書を作成することになるのがベストな選択となるでしょう。

(三) 相続人以外の方に財産を遺したい方
遺言書を作成することによりまして、相続人以外の方に財産を遺すことが可能となるでしょう。もし遺言書が存在しなければ、法定相続人で相続することになりますので、相続人以外の方が財産を相続することが不可能になってしまいます。例えば、長男のお嫁さんが生前に面倒をよくみてくれていたこともあり、長男のお嫁さんに財産を遺しておきたいと考えていたと仮定したとします。相続する権利は存在していませんが、遺言書によって長男のお嫁さんに対して財産を遺す旨を指定することで、お嫁さんも財産を相続する権利が生じることになってしまうことになります。内縁の妻に対して財産を遺したい場合も遺言書が必要になると考えられます。

(四) 相続人同士が揉めそうな方
相続人同士の仲が悪くなってしまって、将来遺産分割で揉めそうな方、もしくは、相続財産の多くが不動産で遺産分割が難しい方につきましては、生前に遺言書を作成することによって、相続人同士が遺産分割で揉めるのを防ぐことが可能となります。例えば、相続人が長男、次男、三男の3人で、相続財産が賃貸物件だと仮定します。賃貸物件を3人で、相続財産を分けなければなりません。賃貸物件を3人共有で相続した場合におきまして、3人の署名・押印がなければ、その物件を売却することも、その物件を担保にローンを組むことも不可能になってしまうでしょう。このような将来のもめ事を避けるためにも、生前に遺言書を作成することにしまして、「賃貸物件については長男に相続させ、長男は次男と三男に現金○○円を支払う(代償分割※)」と指定することができれば、賃貸物件を共有で相続するという事態を避けることが可能になることを留意すべきでしょう。

※ 代償分割・・・相続人の1人が相続によって財産の現物を取得する一方、他の相続人に取得した財産に相当している債務を負担する遺産分割の方法をいうことになります。

(3) 遺言書を作成する上でのポイント
遺言書を作成する上でのポイントについては、以下の4点となるでしょう。
1、 遺留分を考慮した遺言書であること。
2、 相続税を考慮した遺言書であること。
3、 有効性のある遺言書であること。
4、 遺言書は何度でも書き直しが可能であること。

1、 遺留分を考慮してある遺言書であること。
遺留分とは、民法で定められた相続人の相続が可能となる最低限の保障割合ということになります。基本的には、法定相続分の半分になるでしょう。なお、兄弟姉妹については遺留分は存在していないことに留意しなければなりません。
この遺留分を侵害してしまって、遺言書を作成した場合につきましては、遺留分を有している相続人が、自分の遺留分に対する不足分の取り戻し請求、つまり「遺留分減殺請求」をすることが可能となるでしょう。もし、全ての財産を特定の者に相続させるという遺言を書いた場合につきまして、他の相続人から「遺留分減殺請求」をされることによって、その遺留分に相当する財産をその相続人に返還しなければならないでしょう。
せっかく作成することにした遺言書によって、相続人同士の争いが生じてしまっては、元も子もなくなってしまいます。
遺留分を考慮した遺言書を作成するべきでしょう。

2、 相続税を考慮した遺言書であること。
相続税を考慮した遺言書であるということは、イ)相続税法上の有利な特典をしっかりと活用できているか、ロ)納税を考慮した分割内用になっているか、ということになります。

1) 相続税法上の有利な特典を活かしているのか。
相続税法上の有利な特典で主になってくるのは、「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地等の減額の特例」となるでしょう。「配偶者の税額軽減」とは、配偶者が相続を行った財産については、一定割合まで非課税となるものとなります。「小規模宅地等の税額の特例」とは、亡くなられた方が居住用、もしくは事業用としまして利用していた土地を相続した相続人が一定の要件を満たすことができれば、土地の相続税評価額の80パーセント(一定の限度あり)を減額することが可能であるというものになるでしょう。
このような特典をフルに活用することができるような遺産分割方法を遺言書で指定することも相続税を考えたうえでは重要となるでしょう。

2) 納税を考慮した分割内容になっているのか。
遺言書を作成しているご自身の意思を尊重したものであるべきであると考えられますが、相続税の納付という観点にも注意を払いながら、遺言書を作成しなければならないでしょう。
例えば、ある相続人の相続財産が土地のみであった場合につきましては、相続税の納付が不可能になってしまう可能性があります。相続人に対して資力がある場合につきましては問題になることはありませんが、納税するだけの資金がない場合につきましては、相続を行った土地を売却することにして納税資金を捻出しなければならないことになります。そのようなケースを避ける目的のためにも、納税額相当の現金を相続人に分けるように金融資産のバランスを考慮した遺言書を作成しなければならないと考えられるでしょう。場合によりましては、物納も考えた遺言書を作成することも検討すべきだと考えられます。

3、 有効性のある遺言書であること。
遺言書を作成したとしても、不備があれば無効となってしまいまして、法律上の効力をもたないことになります。遺言書を作成するにあたっては、きちんとした手続きを踏みまして、作成する必要があると考えられるでしょう。
遺言書については、「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2つの形式が多く用いられることになります。自筆証書遺言とは、作成は簡便なものとなりますが、不備によっては無効となりやすくなり、公証人が公正証書としまして作成する公正証書遺言の方が確実であると考えられます。また、公正証書遺言につきましては、公証役場で保管されることになるため、紛失のおそれも心配する必要もありません、遺言書を作成することになるのならば、より確実性の高い公正証書遺言をお勧めいたします。

4、 遺言書は何度でも書き直しが可能であること。
遺言書には、有効期限が存在していないことに留意しなければなりません。何度でも作り直すことが可能でなければなりません。また複数の遺言書が存在する場合につきましては、最新の遺言書が有効となることに留意しましょう。
財産の内容や財産の評価額につきましては毎年変化することになりますので、遺言書の的的な見直しが必要だと考えられます。遺言書を定期的に見直さなかったために、後々思わぬトラブルが生じることも考えられてしまいます。
遺言書は何度でも書き直しが可能でありますため、気軽に作成して、定期的に遺言書の内容をメンテナンスすべきだと考えられます。

※ 公正証書遺言と自筆証書遺言との比較
・公正証書遺言
場所:公証人役場。
証人:2人以上。
作成方法:本人が口述し、公証人が筆記。(戸籍謄本等の一定の書類が必要となる。)
署名押印:本人、公証人、証人。
裁判所の検認手続き:不要。
メリット
・ 偽造の危険性がない。
・ 検認手続きが不要である。
・ 証拠能力が高い。
デメリット
・ 遺言内容を秘密にできない。
・ 費用がかかってしまう。
・ 作成手順が煩雑である。

自筆証書遺言
場所:自由。
証人:不要である。
作成方法:本人が自筆し、署名押印する。
署名押印:本人のみ。
裁判所の検認手続き:必要である。
メリット
・ 遺言内容を秘密にできる。
・ 費用がかからない。
・ 証人不要。
デメリット
・ 検認手続きが必要である。
・ 要式欠如による無効がある。
・ 紛失、偽造の可能性がある。

被相続人の財産の額が基礎控除額を上回る場合においても、特例を用いると相続税が課されないことがあるのですか?

 

このような場合でも、特例を用いると相続税が課されないことがあります。以下に、典型例を述べます。

1.配偶者の税額軽減の特例の適用を受ける場合
被相続人の財産の額が基礎控除額を上回る場合においても、被相続人の配偶者は、相続財産の金額のうちで次のどちらか多い方の金額までは相続税が課されません(ただし、配偶者の税額軽減の特例の適用を受けるためには、申告が必要です)。
・1億6,000万円
法定相続分

2.小規模宅地等の特例の適用を受ける場合
一定の条件に当てはまれば被相続人の自宅の敷地の評価額を80%減額できる等、土地については小規模宅地等の特例という優遇税制が存在します。被相続人の財産の額が基礎控除額を上回る場合においても、この特例の適用を受けることによって基礎控除額以下となれば、相続税が課されません(ただし、小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、申告が必要です)。

配偶者の税額軽減という特例は配偶者に対する相続税の優遇措置だと聞きましたが、どのような特例なのでしょうか?

 

被相続人の配偶者は、相続財産の金額うちで次のどちらか多い方の金額までは、相続税が課されません。
・1億6,000万円
法定相続分
仮に、家族構成が夫、妻、子であるとすると、夫が死去した場合に妻の法定相続分は2分の1ですので、妻が夫の財産の2分の1を相続したときにも、相続税の納付税額はゼロということになります。

ただ、相続財産の合計額が基礎控除額を上回るのであれば、配偶者の税額軽減を受けることで納付税額がゼロとなる場合にも、相続税の申告書を提出しなければなりません。

また、相続財産の一部か全部を、仮装隠ぺいによって申告したか申告していなかった場合に、後に税務調査でその事実が発覚し、修正申告か期限後申告を行うことになったときは、配偶者の税額軽減の適用を受けることはできません。

遺産分割がまとまらない場合には、税務上の利点を享受できないのですか?

 

遺産分割に期限は定められていないものの、相続開始日より10ヶ月以内(相続税の申告期限内)に遺産分割をしなければ、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の特例という税務上の利点を享受できない場合があります。すなわち、遺産分割で揉めることにより、納税で苦労する可能性があります。

1.税務上の利点
(1)小規模宅地等の特例
居住用に用いている宅地等を相続した場合、240㎡(平成27年以降の相続等によって取得する宅地等に関しては330㎡)に達するまでの部分に関しては、通常の方法によって評価した価額より80%を乗じて算出した金額を評価減として差し引くことが可能です。
(2)配偶者の税額軽減の特例
被相続人の配偶者が、相続財産のうち正味財産額1億6,000万円か法定相続分(2分の1)まで相続財産を取得した場合、その配偶者に相続税は課されません。
ただ、仮装隠ぺいにより申告しなかった財産等について、後に税務調査によって修正申告することになったときには、配偶者の税額軽減は適用されないことに留意が必要です。

2.相続財産が未分割である場合の手続き
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の特例の適用を受けることができる財産は、相続税の申告期限内に遺産分割等によって実際に条件に当てはまる者が取得したものに限定されるのが原則です。
ただ、申告期限内に遺産分割がなされなかった場合においても、申告期限より原則として3年以内に分割されたときには、適用を受けることが可能です。なお、この適用を受けるには、当初の申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を、申告書に添えなければなりません。

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