‘小規模宅地等の特例’

Q.相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらない場合には、配偶者の税額軽減等の適用を受けることができないのでしょうか?

 

A.相続税の申告期限までに遺産分割が行われず、未分割のままで申告書を提出するのであれば、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することが大切です。この分割見込書を提出すると、申告期限後3年以内に遺産分割がなされた場合には、配偶者の税額軽減小規模宅地等の特例の適用を受けることが可能です。

ちなみに、農地等の納税猶予については、申告期限までに分割されている必要がありますので、留意が必要です。

Q.相続税の申告期限までに遺産分割を行うことによる税務上のメリットは、何かありますか?

 

A.遺産分割に期限が設けられているわけではありませんが、相続税の申告期限まで(相続開始後10ヶ月以内)に遺産分割を行い、税務上のメリットを活かしましょう。税制上のメリットとして、以下のような制度を挙げることができます。

1.配偶者の税額の軽減
配偶者が相続財産のうち、正味財産額1億6,000万円までか法定相続分(2分の1)までの相続財産を取得した場合、その配偶者に相続税は課されません。
ただし、仮装隠ぺいにより申告しなかった財産について、後日、税務調査によって修正申告を行うことになったら、その仮装隠ぺいされた財産はこの制度の対象とはならないということに、留意が必要です。

2.小規模宅地等の特例
居住の用か事業の用に供している宅地等を相続した場合、一定の選択をしたもので一定の面積までの部分については、次の減額割合を乗じて算出した金額を評価減として、通常の方法によって評価した価額より差し引くことができます。
・特定居住用宅地等に該当すれば240㎡まで80%(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については330㎡まで)
・特定事業用宅地等や特定同族会社事業用宅地等に該当すれば400㎡まで80%
・貸付事業用宅地等に該当すれば200㎡まで50%

3.農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例
農業を営んでいた被相続人より一定の農地等を相続や遺贈により取得した相続人が、その農地等で農業を継続する場合は、一定の条件の下にその農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額は、納税が猶予されます。
その後、この納税猶予税額は、次のどれかに当てはまることになったときに免除されます。
・農業相続人が相続税の申告書の提出期限より農業を20年間継続した場合(市街化区域内農地等に対応する農地等納税猶予税額の部分に限定されます)
・農業相続人がこの特例の適用を受ける農地等の全部を農業後継者に生前一括贈与し、その贈与税につき納税猶予の特例を受ける場合
・農業相続人が死去した場合

Q.相続開始後に税の負担を軽くするためにできる対策は、何かありますか?

 

A.相続開始後に税負担を軽減するためにできることを以下に述べます。

1.配偶者の税額の軽減を利用する
配偶者の税額の軽減というのは、被相続人の民法上の配偶者(内縁関係の人は対象外です)が取得した財産は、1億6,000万円と法定相続分のどちらか多額の金額までは、相続税がかからないという制度です。配偶者への優遇措置が設けられているのです。

2.二次相続まで考慮して遺産分割を行う
配偶者は預金と自宅をメインに相続します。相続した預金を毎年110万円ずつ贈与することも可能であり、そのように贈与を行うことで二次相続発生時における配偶者の財産が減少します。

3.分割の仕方によって土地の評価が低くなる
土地は、所有かつ利用により評価を行いますので、分割の仕方によって評価額を引き下げることが可能です。ただし、土地の有効活用が図られていない場合には不合理分割の認定を受けることがあります。
例えば、兄と弟で半分ずつ共有相続するより、二つに分割して相続する方が、大幅に土地の評価額が低くなるケースもあります。

4.小規模宅地等の特例の適用を受けた土地は子が相続する
居住用宅地につき240㎡まで(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については330㎡まで)、事業用宅地につき400㎡まで80%の評価減を、貸地等につき200㎡まで50%の評価減を受けることができます。配偶者が相続財産の半分までは課税されないことから、配偶者がこの小規模宅地を相続した場合には、評価減の効果が半減することになってしまいます。したがって、小規模宅地等の特例の適用を受けることができる子が、その土地を相続するといいと思われます。

5.売却予定の不動産は共有で相続する
居住用財産を売った場合には、譲渡所得より3,000万円まで控除ができる特例が存在します。
例えば、母と息子の2人の共有名義で相続しかつ同居している自宅を売ったのであれば、上記の3,000万円控除を母と息子がそれぞれ利用できます。それゆえ、譲渡所得は2人で計6,000万円まで非課税とされます。相続税申告期限後に売却を行いましょう。

6.相続税が取得費に加算される特例を利用する
相続によって取得した財産を、相続税の申告期限の翌日以降3年を経過する日までに譲渡した場合、譲渡税が軽減されることがあります。

Q.将来の相続に向けて生前にできる対策は、何かありますか?

 

A.将来の相続に向けて相続開始前にできることを以下に述べます。

1.暦年課税贈与で相続財産より分離する
110万円の基礎控除を活用し、毎年手堅く子に贈与していくといいでしょう。暦年課税贈与については、贈与者が死去した際に相続税を算出するに当たり、原則として贈与財産の価額を相続財産の価額に加算する必要はありません。
ちなみに、相続時精算課税贈与の場合は、特別控除額は2,500万円ですが、贈与財産は贈与時の価額で相続税の課税財産に算入されることになります。

2.暦年課税贈与の配偶者控除を利用して自宅を贈与する
婚姻期間が20年以上である場合において、夫婦間で居住用不動産か居住用不動産を取得するための金銭の贈与がなされたときには、基礎控除(110万円)に加えて配偶者控除(2,000万円)の適用を受けることができます。

3.収益物件を贈与する
家賃収入を得られる建物を贈与した場合には、家賃が子の収入となります。なお、贈与するのは建物のみで構わず、敷地を贈与しなければならないわけではありません。
贈与金額は、固定資産税評価額の70%となり、固定資産税納税通知書で確認することが可能です。
・贈与金額が少額となるのであれば、暦年課税贈与を行います。
・贈与金額が多額となるのであれば、精算課税贈与を行います(将来相続財産に合算されるものの、相続開始までの家賃を子に帰属させることが可能です)。
・上記のいずれでもないのであれば、複数年に分けて暦年課税贈与(共有持分の贈与)を行います。

4.退職金支給で評価を下げて自社株を贈与する
オーナー社長の引退や老齢で相続の時期が近づいている場合には、多額の退職金を社長に支給して大幅に利益を圧縮し、自社株式の評価額を引き下げます。株価が下がったところで、相続時精算課税制度を用いて後継者に贈与します。

5.小規模宅地等の特例の適用要件を確認する
小規模宅地等の特例というのは、居住用宅地につき240㎡まで(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については330㎡まで)、事業用宅地につき400㎡まで80%の評価減を、貸地等につき200㎡まで50%の評価減を受けることができるという制度です。
相続開始前に、上記の特例の適用要件を満たしておくといいでしょう。

6.孫を養子にする
養子が一人増えたら、基礎控除が1,000万円(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については600万円)増加するほか、適用税率が下がることがあります。そして、養子にしても相続財産を分配しなければならないわけではありません。法定相続人の数を増やすことに意義があるのです(法定相続人の数に含める養子の数は、一定の人数までとされています)。
また、孫を養子にした場合、相続税を1代飛ばすことができるというメリットもあります。
なお、孫を養子にした場合のデメリットは、孫の相続税額が2割加算となることです。

7.預金ではなく生命保険で残す
生命保険金は指定した受取人の固有の財産ですので遺産分割の対象とはならず、確実に受取人のものとなります。さらに、生命保険金は、500万円に法定相続人の数を乗じた額まで非課税とされています。

8.会社分割で円滑に事業承継を行う
後継者が2人存在する場合には、生前に会社を分割し、兄弟でトラブルになることにないようにしましょう。
例えば、創業者がA社の株を100%有していて、A社はa事業とb事業を行っている場合、按分型の新設分割によってB社を設立し、B社にb事業を移します。この時点でA社とB社の株を100%有している創業者は、両者の経営を見つつ、生前贈与、親子間譲渡、遺言によって、A社株式を長男に、B社株式を次男に取得させます。

9.物納の条件整備をしておく
(1)測量等を行っておく
物納申請のためでも、相続発生後に要した測量費用、境界確認費用等に、相続税の債務控除は適用されません。相続が発生する前に行っておくと、相続財産がその費用分減少しますので、相続税の負担もその分軽減されます。
(2)隣地の人と仲良くしておく
物納時には、隣地の人より境界確認の印をもらうことになりますので、隣地の人々とは日頃より良好な関係を築いておくことが重要です。

Q.持分の定めのある社団医療法人の理事長は、出資持分に係る相続対策を取る必要があるのか否かについて教えてください。

 

A.遺産分割をめぐるトラブルや重い相続税の負担が、病院が存続の可否を左右する場合もあることから、前もって相続税に関するシミュレーションをし、納税資金の確保等も含めた対策を取っておかなければなりません。

1.重要課題といえる出資持分の承継
多くの場合、持分の定めのある社団法人の理事長の出資持分の評価は高額となりますので、後継者等の相続人の相続税への影響が小さくありません。したがって、理事長にとって、後継者に対する出資持分の承継は大きな課題といえます。
ゆえに、後継者等の相続人が負担する相続税額がどの程度になるかを事前に把握して、長期間にわたり相続税対策の検討を行わなければなりません。

2.理事長に相続が生じるまでに確かめる事項
理事長個人の相続財産や債務の全体像を把握し、相続税納税資金がどの程度必要であるかということや必要額の有無について確認を行います。また、後継者等の後継者に対していかに財産を分割するかについて検討を行います。例えば前もって、次に掲げることの確認をします。
(1)医業用不動産(土地、建物)の所有者は理事長であるか。
相続財産は相続税評価額によって評価を行いますが、一定の要件に合致する土地であるなら、最高80%の評価減となる「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用を受けることができます。
(2)理事長の出資持分はどのくらいの評価となるか。
後継者が理事長の出資持分を承継していくと思われますので、その出資持分がどの程度の評価となるかを分かっておくことは大切です。
(3)理事長から医療法人への貸付金は存在するか。
理事長から医療法人への貸付金(医療法人にとっては借入金)は、理事長個人の相続財産ということになります。
(4)理事長個人の財産のうちで換金できる財産はどの程度存在するか。
後継者以外の相続人への分割財産や相続税納税資金を確保できるかを確認します。

3.前もって出資持分の評価をすることの重要性
理事長の相続財産のうちで、医療法人の出資持分は非常に重要なものです。出資持分は相続時点に
おける評価額で評価されますが、医療法人については法律で剰余金の配当が禁じられていますから、
長年にわたって利益が内部に蓄積している法人であれば、相続時点での出資持分の評価額が設立当初
の出資額を大きく上回ることも多いといえます。
そして、出資持分の評価額が高くなって、後継者に医業承継財産が集中すると、出資持分には換金
性がありませんから、後継者となる相続人の納税資金が不足してしまう場合もあります。
ゆえに、円滑に後継者への事業承継を行うには、現状における医療法人の出資持分の評価をした上で、後継者がどの程度の相続税を負担することになるかをシミュレーションすることが必要となります。

4.出資持分の評価が高額である場合の相続対策
出資持分の評価額が高額である場合、後継者の納税の負担は大きくなると思われます。したがって、前もって出資持分の評価を引き下げて、出資持分の一部を後継者に移転させることで相続財産そのものを理事長から切り離すこと、また、どのようにすれば納税資金を確保できるかに関して検討を重ねることが重要になります。
(1)出資持分の評価を下げる方法の例
理事長の勇退に伴う退職金の支払いは、出資持分の評価を下げるための方法の一つといえます。 退職金を支払うと多額の経費が生じますので、医療法人の純資産が減少します。純資産の減少により出資持分の評価は下がりますので、その時期に出資持分を後継者に移転しましょう。譲与と贈与という二つの移転方法が存在します。
(2)納税資金を確保する方法の例
後継者が既に医療法人の理事等である場合は、不相当に高額な役員報酬ではない範囲内で、その後の納税資金をある程度意識した役員報酬の設定を行うことが大切です。
そのほか、生命保険を活用し、理事長に相続が生じた際に医療法人が遺族(後継者)に対して支給する死亡退職金を納税資金とするという方法等が挙げられます。

父に相続が生じましたが、母は既に他界しているので相続人は私と妹が該当します。父の所有していた財産は自宅の不動産(相続税評価額は8,000万円)と保険金(3,000万円)です。妹とは自宅についての遺産分割は父と同居していた私が相続することで合意しました。しかし、保険金の受取人についても私が相続人であったため、妹は少しの財産も相続できません。妹と不動産を共有したくはありませんが、何かいい解決策はありませんか。

 

解決の方法の一つに代償分割という方法がございます。代償分割とは遺産分割の方法であり、相続人の1人もしくは数人が相続財産を手に入れて、その相続財産を手に入れた人が別の相続人に代償金などを支払う方法を指していいます。
あなたの場合には、自宅の不動産の全て及び保険金を手に入れることを見返りとして、妹に対して代償金を支払うという方法が考えられます。

【解説】
1、不動産を共有で相続する場合
遺産分割に関して、相続財産が不動産だけの場合には、その不動産を共有持分として相続することが可能になります。しかし、兄弟と不動産を共有した場合には、売却などの処分につきましても共有者の同意を得る必要が発生し、また、この先財産が細分化されていく場合もございます。
仮に、妹とあなたがご自宅の不動産につきまして相続を行った場合、ご自宅の立て替え・買い換えをされる場合は、全て妹の同意が必要になってきます。

2、小規模宅地等の特例
相続税の計算の上で、小規模である宅地などの特例の適用につきましては、その不動産の取得者1人1人に判定を行うため、一定の用件を満たさない相続人がその不動産を相続したとしても適用を受けられない可能性も考えられます。また、同居する親族がご自宅を相続された場合、一定の要件を満たすことで、240㎡まで80%の減額を受けることが可能になります。
仮に、妹とあなたがご自宅である不動産を1/2ずつを共有のものとして相続し、一定の用件を満たすことができた場合、あなたの相続する持分だけが80%の減額の対象になり、妹が相続する持分について特例は適用されません。
具体的に計算した場合、以下のようになります。
①全ての相続をあなたがした場合の相続税の評価額の計算
8,000万円×(1-80%)=1,600万円
②妹とあなたが1/2ずつ共有で相続された場合の相続税の評価額の計算
あなたの持分:8,000万円×1/2×(1-80%)=800万円
妹の持分:8,000万円×1/2=4,000万円
合計:4,800万円

3、代償分割
あなたがご自宅である不動産について全てを相続することによって、この先の処分もご自身だけの判断で行うことが可能で、小規模な宅地等の特例の適用がされることができます。
妹につきましてはその見返りとして、保険金及びご自身の現預金など諸々から代償金を支払えば円滑に遺産分割を行うことができます。
留意点は次のとおりです。
①代償分割を行う予定して話を進めている場合、生命保険金などで代償金に見合った財産を生前から用意しておく必要があります。
②相続によって手に入れた不動産を売却した上でその代金を分割した場合には換価分割と考えられますので、売却についての所得税などの負担が生じる場合がでてきます。
③代償財産として交付する財産について、その財産が交付する相続人の所有している不動産の場合には、その交付した時の時価でその不動産を売却したとみなし、所得税などが課せられます。

遺産分割において、遺言が有効に働くと耳にしましたが、どのような点で有効だと考えられているのでしょうか?

 

<解答>
死後におけるご自身の財産の処分を、奥様・お子様などの残された方に対して伝えるとともに、その実現を図ろうとするものが、遺言になります。遺言書がない場合については、相続人同士の遺産分割協議によって相続財産を分けることになってしまうため、争いが生じやすくなっているようです。協議がまとまらないことになってしまえば、いつまでたっても相続財産を分けることが不可能になってしまうでしょう。遺言は、このような相続人の間の争いを防ぐことが可能になるため、遺産分割に有効であると断言できるでしょう。

<解説>
(1) 遺言のメリット
相続におきまして、最も優先されることになるものについては、亡くなられた方のご意思となります。その亡くなられた方の意思を表したものが遺言となるでしょう。遺言については、遺産の具体的な配分方法の指定を亡くなられた方が可能となるため、遺産分割協議のトラブルを事前に防止することが可能となるでしょう。
また、遺産の配分方法以外にも、ご家族に対する考えや想いについても伝えてその実現を図ることが可能になると思われます。
さらに、遺言によって相続人以外の方に対しても財産を遺すことが可能となるでしょう。

(2) 遺言の必要な方
特に次のような方につきましては、遺言書を作成することがお勧めできますので、覚えておくと良いでしょう。

(一) 子供のいない夫婦
お子様のいない夫婦の相続人につきましては、お二人のご両親がすでに亡くなっている場合には、配偶者と兄弟姉妹になってしまうようです。したがいまして、夫が妻にすべての財産を遺したいと思われていたとしましても、遺言書がない場合については、兄弟姉妹についても夫の財産を相続する権利が生じてしまうことになってしまいます。兄弟姉妹がその権利を主張することになってしまいまして、遺産分割協議書に印鑑を押さない場合につきましては、妻は、夫の金融資産の名義変更や、ご自宅の相続登記さえ、行うことが不可能になってしまうことに留意すべきでしょう。兄弟姉妹と仲がよくなったとしても、相続がおきると揉めてしまうケースが多々存在しているでしょう。遺言書は残された奥様にも、そのような苦労をかけないためにも、作成した方がよいと考えられるでしょう。

(二) 相続人がいない方
配偶者、お子様、兄弟姉妹などの相続人が存在していない方につきましては、遺言書が存在していない場合に関しましても、相続財産は最終的に国に帰属することになってしまいます。もし生前に遺言書を作成することになれば、ご自身が相続後の財産の処分方法を定めることが可能となります。例えば、遺言書で指定することによって、○△協会、○×財団、学校法人などの公的な団体や法人に、ご自身の死亡後に財産をどのように遺したいのかをじっくりと考えまして、遺言書を作成することになるのがベストな選択となるでしょう。

(三) 相続人以外の方に財産を遺したい方
遺言書を作成することによりまして、相続人以外の方に財産を遺すことが可能となるでしょう。もし遺言書が存在しなければ、法定相続人で相続することになりますので、相続人以外の方が財産を相続することが不可能になってしまいます。例えば、長男のお嫁さんが生前に面倒をよくみてくれていたこともあり、長男のお嫁さんに財産を遺しておきたいと考えていたと仮定したとします。相続する権利は存在していませんが、遺言書によって長男のお嫁さんに対して財産を遺す旨を指定することで、お嫁さんも財産を相続する権利が生じることになってしまうことになります。内縁の妻に対して財産を遺したい場合も遺言書が必要になると考えられます。

(四) 相続人同士が揉めそうな方
相続人同士の仲が悪くなってしまって、将来遺産分割で揉めそうな方、もしくは、相続財産の多くが不動産で遺産分割が難しい方につきましては、生前に遺言書を作成することによって、相続人同士が遺産分割で揉めるのを防ぐことが可能となります。例えば、相続人が長男、次男、三男の3人で、相続財産が賃貸物件だと仮定します。賃貸物件を3人で、相続財産を分けなければなりません。賃貸物件を3人共有で相続した場合におきまして、3人の署名・押印がなければ、その物件を売却することも、その物件を担保にローンを組むことも不可能になってしまうでしょう。このような将来のもめ事を避けるためにも、生前に遺言書を作成することにしまして、「賃貸物件については長男に相続させ、長男は次男と三男に現金○○円を支払う(代償分割※)」と指定することができれば、賃貸物件を共有で相続するという事態を避けることが可能になることを留意すべきでしょう。

※ 代償分割・・・相続人の1人が相続によって財産の現物を取得する一方、他の相続人に取得した財産に相当している債務を負担する遺産分割の方法をいうことになります。

(3) 遺言書を作成する上でのポイント
遺言書を作成する上でのポイントについては、以下の4点となるでしょう。
1、 遺留分を考慮した遺言書であること。
2、 相続税を考慮した遺言書であること。
3、 有効性のある遺言書であること。
4、 遺言書は何度でも書き直しが可能であること。

1、 遺留分を考慮してある遺言書であること。
遺留分とは、民法で定められた相続人の相続が可能となる最低限の保障割合ということになります。基本的には、法定相続分の半分になるでしょう。なお、兄弟姉妹については遺留分は存在していないことに留意しなければなりません。
この遺留分を侵害してしまって、遺言書を作成した場合につきましては、遺留分を有している相続人が、自分の遺留分に対する不足分の取り戻し請求、つまり「遺留分減殺請求」をすることが可能となるでしょう。もし、全ての財産を特定の者に相続させるという遺言を書いた場合につきまして、他の相続人から「遺留分減殺請求」をされることによって、その遺留分に相当する財産をその相続人に返還しなければならないでしょう。
せっかく作成することにした遺言書によって、相続人同士の争いが生じてしまっては、元も子もなくなってしまいます。
遺留分を考慮した遺言書を作成するべきでしょう。

2、 相続税を考慮した遺言書であること。
相続税を考慮した遺言書であるということは、イ)相続税法上の有利な特典をしっかりと活用できているか、ロ)納税を考慮した分割内用になっているか、ということになります。

1) 相続税法上の有利な特典を活かしているのか。
相続税法上の有利な特典で主になってくるのは、「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地等の減額の特例」となるでしょう。「配偶者の税額軽減」とは、配偶者が相続を行った財産については、一定割合まで非課税となるものとなります。「小規模宅地等の税額の特例」とは、亡くなられた方が居住用、もしくは事業用としまして利用していた土地を相続した相続人が一定の要件を満たすことができれば、土地の相続税評価額の80パーセント(一定の限度あり)を減額することが可能であるというものになるでしょう。
このような特典をフルに活用することができるような遺産分割方法を遺言書で指定することも相続税を考えたうえでは重要となるでしょう。

2) 納税を考慮した分割内容になっているのか。
遺言書を作成しているご自身の意思を尊重したものであるべきであると考えられますが、相続税の納付という観点にも注意を払いながら、遺言書を作成しなければならないでしょう。
例えば、ある相続人の相続財産が土地のみであった場合につきましては、相続税の納付が不可能になってしまう可能性があります。相続人に対して資力がある場合につきましては問題になることはありませんが、納税するだけの資金がない場合につきましては、相続を行った土地を売却することにして納税資金を捻出しなければならないことになります。そのようなケースを避ける目的のためにも、納税額相当の現金を相続人に分けるように金融資産のバランスを考慮した遺言書を作成しなければならないと考えられるでしょう。場合によりましては、物納も考えた遺言書を作成することも検討すべきだと考えられます。

3、 有効性のある遺言書であること。
遺言書を作成したとしても、不備があれば無効となってしまいまして、法律上の効力をもたないことになります。遺言書を作成するにあたっては、きちんとした手続きを踏みまして、作成する必要があると考えられるでしょう。
遺言書については、「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2つの形式が多く用いられることになります。自筆証書遺言とは、作成は簡便なものとなりますが、不備によっては無効となりやすくなり、公証人が公正証書としまして作成する公正証書遺言の方が確実であると考えられます。また、公正証書遺言につきましては、公証役場で保管されることになるため、紛失のおそれも心配する必要もありません、遺言書を作成することになるのならば、より確実性の高い公正証書遺言をお勧めいたします。

4、 遺言書は何度でも書き直しが可能であること。
遺言書には、有効期限が存在していないことに留意しなければなりません。何度でも作り直すことが可能でなければなりません。また複数の遺言書が存在する場合につきましては、最新の遺言書が有効となることに留意しましょう。
財産の内容や財産の評価額につきましては毎年変化することになりますので、遺言書の的的な見直しが必要だと考えられます。遺言書を定期的に見直さなかったために、後々思わぬトラブルが生じることも考えられてしまいます。
遺言書は何度でも書き直しが可能でありますため、気軽に作成して、定期的に遺言書の内容をメンテナンスすべきだと考えられます。

※ 公正証書遺言と自筆証書遺言との比較
・公正証書遺言
場所:公証人役場。
証人:2人以上。
作成方法:本人が口述し、公証人が筆記。(戸籍謄本等の一定の書類が必要となる。)
署名押印:本人、公証人、証人。
裁判所の検認手続き:不要。
メリット
・ 偽造の危険性がない。
・ 検認手続きが不要である。
・ 証拠能力が高い。
デメリット
・ 遺言内容を秘密にできない。
・ 費用がかかってしまう。
・ 作成手順が煩雑である。

自筆証書遺言
場所:自由。
証人:不要である。
作成方法:本人が自筆し、署名押印する。
署名押印:本人のみ。
裁判所の検認手続き:必要である。
メリット
・ 遺言内容を秘密にできる。
・ 費用がかからない。
・ 証人不要。
デメリット
・ 検認手続きが必要である。
・ 要式欠如による無効がある。
・ 紛失、偽造の可能性がある。

被相続人の財産の額が基礎控除額を上回る場合においても、特例を用いると相続税が課されないことがあるのですか?

 

このような場合でも、特例を用いると相続税が課されないことがあります。以下に、典型例を述べます。

1.配偶者の税額軽減の特例の適用を受ける場合
被相続人の財産の額が基礎控除額を上回る場合においても、被相続人の配偶者は、相続財産の金額のうちで次のどちらか多い方の金額までは相続税が課されません(ただし、配偶者の税額軽減の特例の適用を受けるためには、申告が必要です)。
・1億6,000万円
法定相続分

2.小規模宅地等の特例の適用を受ける場合
一定の条件に当てはまれば被相続人の自宅の敷地の評価額を80%減額できる等、土地については小規模宅地等の特例という優遇税制が存在します。被相続人の財産の額が基礎控除額を上回る場合においても、この特例の適用を受けることによって基礎控除額以下となれば、相続税が課されません(ただし、小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、申告が必要です)。

遺産分割がまとまらない場合には、税務上の利点を享受できないのですか?

 

遺産分割に期限は定められていないものの、相続開始日より10ヶ月以内(相続税の申告期限内)に遺産分割をしなければ、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の特例という税務上の利点を享受できない場合があります。すなわち、遺産分割で揉めることにより、納税で苦労する可能性があります。

1.税務上の利点
(1)小規模宅地等の特例
居住用に用いている宅地等を相続した場合、240㎡(平成27年以降の相続等によって取得する宅地等に関しては330㎡)に達するまでの部分に関しては、通常の方法によって評価した価額より80%を乗じて算出した金額を評価減として差し引くことが可能です。
(2)配偶者の税額軽減の特例
被相続人の配偶者が、相続財産のうち正味財産額1億6,000万円か法定相続分(2分の1)まで相続財産を取得した場合、その配偶者に相続税は課されません。
ただ、仮装隠ぺいにより申告しなかった財産等について、後に税務調査によって修正申告することになったときには、配偶者の税額軽減は適用されないことに留意が必要です。

2.相続財産が未分割である場合の手続き
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の特例の適用を受けることができる財産は、相続税の申告期限内に遺産分割等によって実際に条件に当てはまる者が取得したものに限定されるのが原則です。
ただ、申告期限内に遺産分割がなされなかった場合においても、申告期限より原則として3年以内に分割されたときには、適用を受けることが可能です。なお、この適用を受けるには、当初の申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を、申告書に添えなければなりません。

被相続人がオーナーとなっていた会社の建物の敷地となっている土地を相続しました。何か特例が適用されますか?

 

小規模宅地等の特例により、面積400㎡まで相続評価額を80%減額できます。

1.小規模宅地等(特定同族会社事業用)
(1)概要
事業の用に供している宅地等を相続すると、一定の面積(小規模宅地等)については、通常の方法で評価した価額から次に掲げる面積について次の減額割合を乗じて計算した金額を評価減として控除することができます。
特定同族会社事業用宅地等   400㎡まで  80%

(2)特定同族会社事業用宅地
特定同族会社事業用宅地等とは、相続開始直前から相続税の申告期限まで次のイの要件に該当する法人の事業の用に供されていた宅地等で、その宅地等の取得者のうち次のロの要件の全てに該当する被相続人の親族がいるものをいいます。
イ.相続開始直前において、被相続人及び被相続人の親族等が株式・出資の50%超を有する法人であること。
ロ.相続税の申告期限において、上記イの法人の役員であること。かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること。

(3)特定同族会社の事業の用に供されていた宅地等の範囲
被相続人の有する宅地等の上に特定同族会社の所有する建物等があって、当該特定同族会社が事業(不動産貸付業を除きます)を行っている場合、相当の地代を支払っているときには80%減額となりますが、無償(使用賃借)のときには減額なしとなります。
なお、特定同族会社が不動産貸付業等を行っている場合は、貸付事業用宅地等に該当し、200㎡まで50%減額となります。

(4)土地が複数ある場合
小規模宅地等の特例を複数の宅地に適用する場合、次の算式によって適用対象面積の調整が行われます。
A+B×5/3+C×2≦400㎡
A・・・特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等に該当する部分の合計面積
B・・・特定居住用宅地等に該当する部分の合計面積
C・・・貸付事業用宅地等に該当する部分の合計面積

2.適用要件
この特例の適用を受けるためには、相続税の申告書に、この特例の適用を受ける旨の記載及び計算
に関する明細書その他一定の書類を添付する必要があります。
なお、この特例は、相続税の申告期限までに相続人等によって分割されていない宅地等については、
適用を受けられません。ただし、申告期限までに分割されていない宅地等が、次のいずれかに該当す
ることとなったときには、適用を受けることができます。
・申告期限後3年以内に分割された場合
・期限後3年以内に分割できないことについてやむを得ない事情があり、所轄税務署長の承認を受け
た場合、分割できることとなった日として定められた一定の日から4ヶ月以内に分割されたとき

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