‘相続税の申告期限’
Q.相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらない場合には、配偶者の税額軽減等の適用を受けることができないのでしょうか?
A.相続税の申告期限までに遺産分割が行われず、未分割のままで申告書を提出するのであれば、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することが大切です。この分割見込書を提出すると、申告期限後3年以内に遺産分割がなされた場合には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用を受けることが可能です。
ちなみに、農地等の納税猶予については、申告期限までに分割されている必要がありますので、留意が必要です。
Q.農地等を相続した場合、相続税の納税が猶予されることがあるのでしょうか?
A.農業を営んでいた被相続人等より一定の相続人が一定の農地等を相続か遺贈によって取得し、農業を営む場合等に、一定の条件の下に、その取得した農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超過する部分に対応する相続税額の納付は、その農地等につき相続人が農業を継続する場合等に限って猶予されます。また、この猶予された相続税額は、一定の場合に免除されます。
また、この制度の適用を受ける農地等を「特例農地等」といい、農業経営を引き継ぐ相続人を「農業相続人」といいます。
また、上記の「農業投資価格」というのは、国税局長によって定められた価格であり、将来宅地として転売すれば高く売却できるだろうという潜在的な宅地期待益といえる部分が除外された場合における取引価格のことです。
1.納税猶予期限
猶予された相続税は、次の期間にわたって農業相続人が農業を続けた場合には免除されます。
・特定市以外の市街化区域農地については20年間
・市街化区域外農地と都市営農農地については一生
ただし、特定市以外の市街化区域農地と市街化区域外農地か特定市以外の市街化区域農地と都市営農農地の両方を相続する場合は、終身営農になります。
上記の「都市営農農地」というのは、特定市街化区域農地のうち、生産緑地指定を受けた地区に存在する農地のことです。
なお、納税猶予期限前に、農地等を売ったり、農業をやめたりしたら、納税が猶予されていた相続税のほか利子税も納めることが必要となります。
2.適用要件
・原則として、被相続人が死去する日まで農業を営んでいた農地等(農地、採草放牧地又は準農地)であること(市街化区域外農地につき一定の場合は貸付等を行っても納税猶予が取り消されないことがあります)
・相続税の申告期限までに遺産分割されている農地等であること(ただし、三大都市圏の特定市の市街化区域内の農地については、都市営農農地以外は納税猶予の適用はありません)
・相続税の申告期限までに担保を提供すること
・農業相続人は、相続税の申告期限までに農業経営を始め、その後も引き続き農業経営をすると農業委員会が証明した人であること
・一定の事項を記した期限内申告書を提出すること
Q.配偶者の税額の軽減というのは、どのような制度でしょうか?
A.配偶者が相続財産のうち正味財産額1億6,000万円か法定相続分のいずれか多い金額まで相続財産を取得した場合、その配偶者に相続税は課されません。仮に、夫・妻・子という家族構成であるとします。この場合に夫が死去したら、妻の法定相続分は2分の1となり、妻は相続財産の2分の1を相続したとしても、納付税額はゼロとなります。
妻は夫の財産形成に半分貢献したとみなされますので、相続税について妻は優遇されているのです。
配偶者の税額の軽減の適用を受けることができる財産は、相続税の申告期限までに遺産分割等によって実際に配偶者が取得したものに限定されるのが原則です。ただし、申告期限までに遺産分割がなされなかった財産についても、申告期限より原則として3年以内に分割した場合は、適用を受けることが可能です。
なお、相続財産の一部か全部を、仮装隠ぺいによって申告しているか申告していなかった場合に、その後の税務調査においてその事実が明らかとなり、修正申告か期限後申告を行うことになったときは、その仮装隠ぺいされていた財産についてはこの制度の対象となりません。
Q.相続税の申告期限までに遺産分割を行うことによる税務上のメリットは、何かありますか?
A.遺産分割に期限が設けられているわけではありませんが、相続税の申告期限まで(相続開始後10ヶ月以内)に遺産分割を行い、税務上のメリットを活かしましょう。税制上のメリットとして、以下のような制度を挙げることができます。
1.配偶者の税額の軽減
配偶者が相続財産のうち、正味財産額1億6,000万円までか法定相続分(2分の1)までの相続財産を取得した場合、その配偶者に相続税は課されません。
ただし、仮装隠ぺいにより申告しなかった財産について、後日、税務調査によって修正申告を行うことになったら、その仮装隠ぺいされた財産はこの制度の対象とはならないということに、留意が必要です。
2.小規模宅地等の特例
居住の用か事業の用に供している宅地等を相続した場合、一定の選択をしたもので一定の面積までの部分については、次の減額割合を乗じて算出した金額を評価減として、通常の方法によって評価した価額より差し引くことができます。
・特定居住用宅地等に該当すれば240㎡まで80%(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については330㎡まで)
・特定事業用宅地等や特定同族会社事業用宅地等に該当すれば400㎡まで80%
・貸付事業用宅地等に該当すれば200㎡まで50%
3.農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例
農業を営んでいた被相続人より一定の農地等を相続や遺贈により取得した相続人が、その農地等で農業を継続する場合は、一定の条件の下にその農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額は、納税が猶予されます。
その後、この納税猶予税額は、次のどれかに当てはまることになったときに免除されます。
・農業相続人が相続税の申告書の提出期限より農業を20年間継続した場合(市街化区域内農地等に対応する農地等納税猶予税額の部分に限定されます)
・農業相続人がこの特例の適用を受ける農地等の全部を農業後継者に生前一括贈与し、その贈与税につき納税猶予の特例を受ける場合
・農業相続人が死去した場合
Q.遺産分割の方法として、どのような方法がありますか?
A.遺産が確定した後には、全ての相続人で遺産分割協議をし、遺産分割協議書に署名捺印を行います。遺産分割協議書が完成した後には、相続した財産の名義変更をします。とりわけ預金については、相続税の納税資金に充当するのであれば、相続税の申告期限までに名義を変更しておかなければなりません。
遺産分割の方法として、以下の四つが存在します。
1.現物分割
現物分割というのは、遺産分割の一般的な方法で、遺産を現物のままで相続人ごとに分割する方法のことです。
2.換価分割
換価分割というのは、遺産を売って換金を行い、その換金した金銭を相続人で分ける方法のことです。ただし、遺産売却の際に譲渡益が生じると、全ての相続人に譲渡所得が発生します。
3.代償分割
代償分割というのは、相続人のうちの一人1人が、遺産を取得した代償として他の相続人に金銭等の財産を与えるという分割方法のことです。例えば、相続財産が土地(4,000万円)のみである場合に、長男がその土地を相続し、次男に現金2,000万円を払うというような方法です。
4.共有分割
共有分割というのは、一つの財産を、複数の相続人の共有持分で有する方法のことです。
Q.相続開始後に税の負担を軽くするためにできる対策は、何かありますか?
A.相続開始後に税負担を軽減するためにできることを以下に述べます。
1.配偶者の税額の軽減を利用する
配偶者の税額の軽減というのは、被相続人の民法上の配偶者(内縁関係の人は対象外です)が取得した財産は、1億6,000万円と法定相続分のどちらか多額の金額までは、相続税がかからないという制度です。配偶者への優遇措置が設けられているのです。
2.二次相続まで考慮して遺産分割を行う
配偶者は預金と自宅をメインに相続します。相続した預金を毎年110万円ずつ贈与することも可能であり、そのように贈与を行うことで二次相続発生時における配偶者の財産が減少します。
3.分割の仕方によって土地の評価が低くなる
土地は、所有かつ利用により評価を行いますので、分割の仕方によって評価額を引き下げることが可能です。ただし、土地の有効活用が図られていない場合には不合理分割の認定を受けることがあります。
例えば、兄と弟で半分ずつ共有相続するより、二つに分割して相続する方が、大幅に土地の評価額が低くなるケースもあります。
4.小規模宅地等の特例の適用を受けた土地は子が相続する
居住用宅地につき240㎡まで(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については330㎡まで)、事業用宅地につき400㎡まで80%の評価減を、貸地等につき200㎡まで50%の評価減を受けることができます。配偶者が相続財産の半分までは課税されないことから、配偶者がこの小規模宅地を相続した場合には、評価減の効果が半減することになってしまいます。したがって、小規模宅地等の特例の適用を受けることができる子が、その土地を相続するといいと思われます。
5.売却予定の不動産は共有で相続する
居住用財産を売った場合には、譲渡所得より3,000万円まで控除ができる特例が存在します。
例えば、母と息子の2人の共有名義で相続しかつ同居している自宅を売ったのであれば、上記の3,000万円控除を母と息子がそれぞれ利用できます。それゆえ、譲渡所得は2人で計6,000万円まで非課税とされます。相続税申告期限後に売却を行いましょう。
6.相続税が取得費に加算される特例を利用する
相続によって取得した財産を、相続税の申告期限の翌日以降3年を経過する日までに譲渡した場合、譲渡税が軽減されることがあります。
物納申請中に、相続が開始された場合についてが、わかりません。
<解答>
物納申請中における、土地については相続財産となり、物納申請に係っている未納の相続税については、債務控除の対象となる。
<解説>
(1) 物納申請に係っている財産及び債務の承継
相続人は、民法899条において、その相続分に応じて、被相続人の権利義務を承継すると規定されている。また、国税通則法第5条においては、国税の納付義務について、相続人が相続分に応じて承継することとされている。
このため、相続の開始が、物納申請中にあった場合においては、被相続人が物納申請を行っている相続税額について、その物納申請を、各相続人が行っているものとして取り扱われることになる。
したがって、物納申請中の土地にいては、相続財産になり、物納申請に係っている未納の相続税については債務控除の対象となることになる。
【注意点】
(一) 物納申請書については、相続税の納期限、あるいは納付すべき日(相続税の申告期限については相続の開始があった日から10ヶ月以内)までに提出しなければならないと規定されている。
物納財産を、国は換金することになるため、物納要件については、細かく規定されている。また、要件を満たしていない場合については、却下されたり物納財産の変更を求められたりすることもあるため、注意が必要だろう。
このため、相続が、物納申請中において発生した場合においては、物納についての一定の結論を得ることができるまでの間については、遺産分割を行わないほうが良いと考えられる。
(二) 物納申請中の財産と、その物納申請に係っている未納の相続税債務の承継についてだが、承継する債務と承継する財産の割合が異なる場合など、承継の方法によって、問題が発生する場合などが存在していると考えられるため、事前に税理士などの専門家にご相談されることをお勧めする。
失踪宣告について、説明してください。
<解答>
生死が不明の者がいる場合におきましては、その利害関係者が家庭裁判所に「失踪宣告」の申し立てをすることができるでしょう。失踪宣告が家庭裁判所からなされますと、戸籍上、行方不明者は死亡したことになります。
<解説>
(1) 民法においての手続き
生死不明の者が存在している場合におきましては、その者の推定相続人等、利害関係者が家庭裁判所に対して失踪宣告を求める申し立てをすることが可能になるでしょう。申し立てがあった場合におきましては、家庭裁判所は、一定期間(普通失踪においては6ヶ月以上、特別失踪においては2ヶ月以上)官報などで公告することになりまして、本人、もしくは生存を知っている者から届出がなかった場合においては、失踪宣告を行うことになるでしょう(民法30条)。この手続きによりまして、生死が不明の者については死亡したことが確定し、戸籍から抹消されることになるようです。
(2) 生死が不明の者とは
失踪宣告の対象になります行方不明者につきましては、2つの種類に区分されることになるでしょう。
1つは、「普通失踪」といいまして、7年間、生死が不明である場合におきまして、7年間を満了した場合においては、死亡したものとみなされます。
もう1つについては、「特別失踪」といいまして、船舶・戦争の沈没・天災ほか危難が及んだ以降に、生死が、1年間不明である場合におきましては、危難が去ったときに死亡したものとみなされることになるでしょう(民法31条)。
(3) 相続税の申告
失踪宣告が、家庭裁判所から出されますと、死亡したとみなされる日に、相続が開始されることになるため、相続税の申告をしなければなりません。
この場合におきまして、法定相続人は、失踪宣告が出されたときではなく、死亡とみなされたときで、判定することになってしまうため、相続税の税額計算・基礎控除などにつきましても、失踪宣告によって死亡とみなされた日時点の法定相続人の数、そして法定相続分によりまして計算することになるでしょう。相続税の申告期限については、一般的には、死亡を知った日から10ヶ月以内になるようですが、失踪宣告がなされた場合につきましては、失踪宣告がなされたことを知った日から10ヶ月以内になります。
(4) 相続人のうちに生死不明の者が存在した場合
生死が、被相続人の相続人のうちに不明の者が存在した場合におきましては、被相続人の遺産分割が不可能になってしまうことになるため、その行方不明者の代理人としまして、財産管理人選任の申し立てを家庭裁判所に行う必要があるでしょう。その代わりに、その行方不明の相続人につきましては、失踪宣告の申し立て手続きをすることも可能になるでしょう。
この場合において、失踪宣告によって死亡とみなされることになった日が、被相続人の死亡日より以前になれば、被相続人の法定相続人から外れることになるでしょう。同じく、被相続人の相続税の基礎控除・税額計算においても、法定相続人の数から除外されることになるでしょう。
(5) 失踪宣告の取り消し
失踪宣告の後に、実は生存していた、もしくは死亡時が違うことが証明された場合におきましては、本人、もしくは利害関係者が家庭裁判所に請求することによりまして、失踪宣告が取り消されることになるでしょう。この手続きによって、戸籍が元に戻るか、あるいは戸籍上の死亡日が修正されることになります(民法32条)。
ここで、すでに受取っていた財産が存在した場合においてはどうなると考えられるのでしょうか?原則として、失踪宣告によりまして受取っていた財産については、現に利益を受けている部分のみ返還すればよいでしょう。受取っていた財産につきましては、なされた契約等も、善意で行ったとされる場合については、遡りまして契約が無効になることもないことを覚えておくべきでしょう。
また、戸籍上の死亡日が修正になった場合におきましては、相続人が変わるケースも考えられます。相続人でなくなった者については、新たに相続人になった者に対し、現に利益を受けている部分を返還することになります。
遺産分割の方法として、どのようなものがありますか?
遺産の確定後、相続人が全員で遺産分割協議をして、遺産分割協議書に署名捺印を行います。遺産分割協議書の作成後に、相続した財産の名義変更をします。とりわけ預金については、相続税の納税資金に充当するのであれば、相続税の申告期限までに名義変更を済ませておかなければなりません。
遺産分割の方法として、次の四つの方法が存在します。
1.現物分割
遺産をそのまま現物によって各相続人に分ける方法で、遺産分割の一般的な方法であるといえます。
2.換価分割
遺産の売却を行って換金した上で、その換金した金銭を相続人で分ける方法です。ただ、遺産売却の際に譲渡益が生じるのであれば、全ての相続人に譲渡所得が生じます。
3.代償分割
相続人のうちの1人が、遺産を取得した代償として他の相続人に対して金銭その他の財産を与える方法です。具体的には、相続財産が土地X(4,000万円)のみであるケースにおいて、長男が土地Xを相続して、長男が次男に現金2,000万円を支払うというような方法です。
4.共有分割
一つの遺産を、複数の相続人の共有持分で所有する方法です。
特定居住用宅地等に該当する土地を相続によって取得した場合、その土地の評価を下げることができるという特例があるのですか?
特定居住用宅地等に該当する土地を相続等によって取得した場合は、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算において、最大240㎡まで、土地の評価が80%減額されます。
ちなみに、平成27年以降の相続等で取得する宅地等に関しては、限度面積が330㎡までに拡大されることになっています。
1.被相続人の居住用に用いられていた土地
(1)被相続人の配偶者が土地を取得した場合
無条件で特定居住用宅地等に該当します。
(2)被相続人と同居していた親族が土地を取得した場合
相続開始時より相続税の申告期限まで引き続いてその家屋に住み、かつ、その土地を相続税の申告期限まで所有していれば、特定居住用宅地等に該当します。
(3)被相続人と同居していない親族が土地を取得した場合
被相続人に配偶者がおらず、かつ、被相続人に相続開始直前においてその被相続人の居住用に用いられていた家屋に住んでいた親族で相続人がいない場合に、次の条件に該当するときには、特定居住用宅地等に該当します。
・相続開始前3年以内に国内にある自身か自身の配偶者の有する家屋(相続開始直前において被相続人の居住用に用いられていた家屋は除外されます)に住んだことがないこと。
・相続開始時に、国内に住所があるか、日本国籍を有していること。
・その土地を相続税の申告期限まで所有していること。
ちなみに、一般的には二次相続の場合において、1人で住んでいた配偶者の自宅を相続するときに、上記の条件に当てはまることがあります。
2.被相続人と生計を一にする被相続人の親族の居住用に用いられていた土地
(1)被相続人の配偶者が土地を取得した場合
無条件で特定居住用宅地等に該当します。
(2)被相続人と生計を一にしていた親族が土地を取得した場合
相続開始直前より相続税の申告期限まで引き続いてその家屋に住み、かつ、その土地を相続税の申告期限まで所有していれば、特定居住用宅地等に該当します。
なお、被相続人に対してその親族が地代等を払っていない必要があります。また、生計を一にする親族というのは、抽象的な概念であるものの、親に対して月ごとに医療費や生活費の仕送りを行っている親孝行な子等は、親と生計を一にする親族ということになります。
3.注意点
・一棟の建物に居住用とそれ以外の部分が存在するのであれば、居住用部分に対応する土地につき、
この評価減が適用されます(それ以外の部分に対応する土地については、各々の利用区分に応じた評価
減の適用が可能です)。
・居住用の土地を共有で相続したのであれば、相続人ごとに条件の判定を行い、条件に当てはまらな
い相続人の持分に関しては評価減が適用されないことになります。