遺言書と異なる分割をした場合についてが、わかりません。
<解答>
原則、遺言にしたがい、分割するのが一般的になるが、相続人及び受遺者が、その遺言を放棄し、全員の同意によりまして分割することになるため、贈与税等の課税関係はないと考えられる。
<解説>
(1) 民法上の取り扱い
相続財産には権利だけではなく、義務も含まれることになるため、遺言の自由が一般的となる。かつ、相続を拒否する自由を認められなければならず、民法では遺言を放棄することが明確に認められている(民法986条(一))。
遺言と異なっている遺産分割を行った場合において、相続人及び受遺者が一旦包括遺贈の放棄を行い、未分割状態に、その財産を戻した上で分割協議をしたものと考えられる。
民法において、相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に、相続人については放棄の手続き(家庭裁判所に申述)をしなければならないと考えられている(民法915条(二))。しかし、包括受遺者についても、この規定が準用されることになる(コンメンタールp6053 包括遺贈)。
(2) 実務上の取り扱い
実務上においては、分割を遺言書とは異なっている内容で、希望する事例はかなり多くなっている。また、民法上においては、上記のように放棄の手続きをとらなければならないと考えられるが、実務上は「事実上の放棄」という点に注目し、上記のような放棄の手続きをする必要がない。遺言書の内容がどのようなものであったとしても、相続人および受遺者全員の同意によって分割されることになるわけであるため、その遺産分割は有効に成立することになって、贈与税の問題は起こらないと考えられている。
(3) 受遺者に相続人以外の者がいた場合
受遺者に対して、相続人以外の人がいた場合において、その相続人以外の人を加え、分割した場合はどうなるのだろうか?
これについては、一旦財産を、相続人が取得し、その中から相続人以外の人に対して贈与したこととなり、贈与税が課税されることになる。遺言と異なる割合、手法によって、法定相続人以外の者に財産を配分する場合においては注意しなければならない。
(4) 遺言執行者が存在している場合
遺産執行者については、相続財産の完治その他遺言の執行について必要な一切の行為を行う権利・義務を有している(民法1012条、1013条)ので、遺言執行者の同意を得られなかった場合については、遺言と異なる分割は不可能になる。
このような事態を避ける目的のためにも、遺言執行者は、原則相続人とするのがよいと考えられる。