‘遺産分割’
生命保険金にも相続税が課されるのでしょうか?
民法においては受取人固有の財産であるものの、相続税法においては相続財産として扱われて相続税が課税される財産が存在します。この財産は「みなし相続財産」と呼ばれ、生命保険金はみなし相続財産に該当します。
生命保険金については、全ての相続人が受領した保険金の合計額が500万円×法定相続人の数を上回る場合、その上回る部分に相続税が課されます。
なお、死亡保険金は指定した受取人の固有の財産となることから、預金で遺された場合とは違い、遺産分割をせずに確実に受取人のものになります。
遺産分割がまとまらない場合には、税務上の利点を享受できないのですか?
遺産分割に期限は定められていないものの、相続開始日より10ヶ月以内(相続税の申告期限内)に遺産分割をしなければ、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の特例という税務上の利点を享受できない場合があります。すなわち、遺産分割で揉めることにより、納税で苦労する可能性があります。
1.税務上の利点
(1)小規模宅地等の特例
居住用に用いている宅地等を相続した場合、240㎡(平成27年以降の相続等によって取得する宅地等に関しては330㎡)に達するまでの部分に関しては、通常の方法によって評価した価額より80%を乗じて算出した金額を評価減として差し引くことが可能です。
(2)配偶者の税額軽減の特例
被相続人の配偶者が、相続財産のうち正味財産額1億6,000万円か法定相続分(2分の1)まで相続財産を取得した場合、その配偶者に相続税は課されません。
ただ、仮装隠ぺいにより申告しなかった財産等について、後に税務調査によって修正申告することになったときには、配偶者の税額軽減は適用されないことに留意が必要です。
2.相続財産が未分割である場合の手続き
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の特例の適用を受けることができる財産は、相続税の申告期限内に遺産分割等によって実際に条件に当てはまる者が取得したものに限定されるのが原則です。
ただ、申告期限内に遺産分割がなされなかった場合においても、申告期限より原則として3年以内に分割されたときには、適用を受けることが可能です。なお、この適用を受けるには、当初の申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を、申告書に添えなければなりません。
遺言があった場合には、相続人や相続分はどうなるのでしょうか?
遺言に従った相続人及び相続分となります。
1.遺言による相続・遺贈
遺言があった場合、遺言に従った財産処分が行われます。遺言によって自分の財産を死後も自由に処分できるよう、民法では次の制度が定められています。
(1)遺贈
遺言により、相続人以外の第三者に遺産を与える方法です。遺贈は、次の2種類に大別されます。
・包括遺贈・・・遺産の一定割合を与えるもの
・特定遺贈・・・遺産のうち特定の財産を与えるもの
(2)相続人に対する相続分の指定
被相続人が遺言で共同相続人の全部、又は一部の相続分を定め、又は定めることを第三者に委託する方法です。
(3)遺産分割方法の指定
被相続人が遺言で遺産の分割方法を定め、又は定めることを第三者に委託する方法です。
自分の死後の財産処分の方法としては、このほか、死因贈与があります。これは、贈与者の死亡により効力を生ずる贈与で、両者の合意によって成立する契約行為です。
遺言は相手方のない単独行為なので取り消すことも自由なのに対して、死因贈与は2者間の契約なので勝手に取り消すことは不可能です。
2.遺言書の種類
遺言が効力を生ずるときには本人は死亡しているので、何が本人の意思であるのかを明確にしておかなければなりません。そのため、遺言については法律で厳格な要件が定められていて、これに反した場合は無効となってしまいます。民法では、遺言書の作成方法として、次の3種類が定められています。
(1)自筆証書遺言
本人が、遺言書の全文・日付・氏名を自筆で書いて押印することによって成立するものです。ワープロ文字や代筆は認められず、必ず自分で書かなければなりません。用紙の制限はありません。封印する必要はありませんが、封印してある場合は勝手に開封することはできず、家庭裁判所において相続人等の立会いの下に開封しなければなりません。
自筆証書遺言には、本人が単独で作成でき、遺言の内容のみならず、その存在自体も秘密にしておけるというメリットがあります。しかし、厳密な法定の要件を満たさず無効になる恐れや、偽造や紛失の恐れがあるというようなデメリットも存在します。
(2)公正証書遺言
遺言書を公証人に作成してもらい、かつ原本を公証人役場に保管してもらう形式の遺言です。作成には、2人以上の証人が必要です。
公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が作成するため、正確で証拠力があり、最も安全、確実といえるでしょう。
(3)秘密証書遺言
(1)と(2)の遺言の中間的なもので、遺言の存在は明確にしつつ、内容を秘密として偽造等を防止するものです。
本人が証書に内容を記載し、署名、押印します。これを封印して公証人と証人2人以上に提出し、自分の遺言である旨及び住所氏名を申述します。公証人が、その日付と申述を封紙に記載した後、本人と証人と共に署名捺印して作成します。
3.家庭裁判所による検認
自筆証書遺言と秘密証書遺言の執行には、家庭裁判所の検認が必要です(公正証書遺言は検認不要で
す)。
検認は、証拠保全の手続きであって、実質的な遺言の効力に影響を及ぼすものではありません。し
たがって、検認を得た遺言の内容の真否について争うことができ、逆に、検認を受けていないという理由で遺言の効力がなくなることもありません。
遺産分割によって私は5,000万円取得しました。その後、税務調査が入り、遺産総額が1億円増えました。その1億円は兄が取得したのですが、私の相続税額まで増えてしまいました。なぜでしょうか?
日本では、相続税の課税方式として、遺産課税方式と遺産取得課税方式の折衷方式が採られているからです。そのために、例えば、遺産分割後に新たに財産が見つかった場合、それを取得しない者も税額が上がる可能性があるというような問題点が存在します。
1.遺産課税方式とは
遺産課税方式とは、被相続人の財産総額に対して相続税を課税する方式をいいます。課税されるのは、財産を取得した相続人ではなく、財産を遺した被相続人です。アメリカ合衆国ではこの方式が採用され、相続が発生した場合、先に財産から税金を徴収し、残りを相続人の間で分配することになります。
(1)メリット
相続人の間でどのように財産が分配されたとしても、全体の相続税額は変化がないので、課税の公平を図ることができます。例えば、遺産総額が同じ10億円のA家とB家であれば、税額は全く同じになります。
(2)デメリット
同じ取り分でも、例えば、被相続人の遺産総額が1億円のC家の相続人が1,000万円取得したときと、遺産総額が10億円のD家の相続人が1,000万円取得したときでは、税額が変わってきます。同じ金額しか取得していないのに、D家の相続人の税額が重くなり、不公平です。
2.遺産取得課税方式とは
遺産取得課税方式とは、相続人が取得した財産の価額に対して課税する方式をいいます。課税され
るのは、財産を取得した相続人です。
(1)メリット
相続した財産の価額に比例して税負担が増えるので、課税の公平を図ることができます。
(2)デメリット
遺産分割のやり方次第で、例えば、相続人1人で全額取得したときと、10人が均等に分けたときでは、相続税の総額が変動します。したがって、同じ10億円の遺産総額があるA家とB家間でも、被相続人ベースでは税負担が不公平になる可能性があります。
3.1と2の折衷方式を採用している理由
日本では、
・相続税の総額を計算するときは、1の遺産課税方式の考え方によっています。
・各人に相続税額を配分するときは、2の遺産取得課税方式の考え方によっています。
これは、主として2(2)のデメリットをなくすためですが、逆に1(2)のデメリットが出現します。そのため、税率が上がると、一見無関係なこの弟さんまで税額が上がってしまうこともあり得るのです。
近年では、環境の変化・格差社会等の視点から、相続税の課税方式について、遺産課税方式や遺産
取得課税方式に見直しを図ろうとする動きも存在しています。
配偶者が相続財産を取得した場合、相続税額の軽減措置はありますか?
配偶者の税額軽減により、配偶者が取得した財産が遺産総額の法定相続分まで、又は1億6,000万円までなら、納付税額はゼロとなります。
1.配偶者に対する相続税額の軽減
配偶者に対する相続税については、主に次のようなことから、配偶者が納付すべき相続税額のうち一定額を軽減する軽減措置が講じられています。
・同一世代間の財産移転であり、子が財産を取得した場合に比べて、次に相続税が課税されるまでの期間が短いこと。
・配偶者は被相続人の財産の維持・形成に貢献していること。
・被相続人の死亡後における生存配偶者の生活保障のため。
2.配偶者の相続は法定相続分まで税額ゼロ
配偶者が相続財産のうち法定相続分又は正味財産額1億6,000万円までの相続財産を取得した場合、その配偶者について相続税はかかりません。例えば、夫・妻・子供という家族構成の場合、夫が死亡すると、妻の法定相続分は1/2となり、妻は相続財産の1/2まで相続しても納付税額はゼロです。
3.配偶者の税額軽減の計算
次のイとロのいずれか少ない方の金額が、配偶者の税額軽減額となります。
イ.配偶者の算出相続税額からその配偶者の贈与税額控除額を控除した金額
ロ.次の算式によって計算した金額
相続税の総額×配偶者の法定相続分相当額(1億6,000万円未満なら1億6,000万円)と配偶者の実際取得額のうちいずれか少ない方の金額/課税価格の合計額=配偶者の税額軽減額
この場合の「配偶者の法定相続分」は、相続の放棄があった場合でも、その放棄がなかったものとした場合における相続分をいいます。
4.相続財産が未分割の場合
配偶者の税額軽減が受けられる財産は、原則として、相続税の申告期限までに遺産分割等によって現に配偶者が取得したものに限られます。しかし、申告期限までに遺産分割が行われなかった場合でも、申告期限から原則として3年以内に分割されたときには、適用を受けることができます。
また、相続財産の一部が未分割の場合の配偶者の税額計算については、債務控除はまず未分割の財産に充てられたものとして計算します。
5.申告要件
配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受けるためには、相続税の申告書(期限後申告書及び修正申告書を含みます)に、その適用を受ける旨及びその計算に関する明細を記載して、次に掲げる書類を添付の上、その申告書を提出しなければなりません。配偶者の税額軽減の適用を受けることによって納付税額がゼロとなる場合でも、申告が必要となります。
・戸籍の謄本(相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたもの)
・遺言書の写し、遺産分割協議書(その遺産分割協議書にその相続に係る全ての共同相続人及び包括受遺者が自署押印した上、印鑑証明書を添付したものに限ります)の写し、その他の財産の取得の状況を証する書類(生命保険金や退職金の支払通知書等)
なお、相続税の申告書を提出する際に、遺産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていない場合において、その申告書の提出後に分割される遺産について相続税額の軽減の適用を受けようとするときは、申告書にその旨並びに分割されていない事情及び分割の見込みの詳細を記載した書類(申告期限後3年以内の分割見込書)を添付する必要があります。
相続発生から申告と納税までに必要な手続きは、どのようなものですか?
財産と債務の把握、これの承認又は放棄をします。そして、被相続人の所得税の申告、遺産の分割を経た後、相続税の申告と納税を行うという流れです。詳細は、次の通りとなります。
1.被相続人の死亡による相続発生後、7日以内に死亡届を、死亡診断書又は死亡検案書を添付した上で、区役所等に提出します。
2.葬儀費用の領収書等を整理します。
3.遺言書がある場合は、家庭裁判所で検認を受けた後に開封します(公正証書遺言は検認不要です)。
4.死因贈与契約書の有無を確認します。
5.相続人の確認を行います(被相続人と相続人の本籍地から戸籍謄本を取ります)。相続人に未成年者がいる場合は、家庭裁判所に特別代理人の申請をします。
6.財産と債務の概要を把握し、相続するか、限定承認するか、又は放棄するかを決めます。なお、相続開始後3ヶ月以内に放棄又は限定承認をしない場合、単純承認となります。
7.被相続人に確定申告義務があれば、相続人が被相続人の死亡の年の1月1日から死亡日までの確定申告を行います。なお、1月1日~3月15日に死亡した場合の前年の確定申告書及び準確定申告書の提出期限は共に、死亡日から4ヶ月以内となっています。
8.相続人の青色申告承認申請書を提出します。期限は、死亡日が1月1日~8月31日の場合は死亡日から4ヶ月以内、9月1日~10月31日の場合は12月31日、11月1日~12月31日の場合は翌年の2月15日です。
9.相続人の消費税の届出書を提出します(原則として死亡の年内)。
10.遺言が相続人の遺留分を侵害している場合は、遺留分の減殺請求ができます(相続開始後1年以内)。11.遺言書通りに相続する場合には、財産の名義変更手続きに移ります。
12.納税資金計画の検討を行います。具体的には、物納、延納、土地売却による納税が必要かどうかを検討します。
13.農家の場合には、農業を継承する相続人を検討します。
14.遺産分割協議書の作成は、法律等で義務付けられているものではありません。しかし、不動産の相続登記をする場合の添付資料として必要となり、また、相続税の申告書にもその写しを添付しますので、遺言書がある場合以外は遺産分割協議書を作成することとなります。
15.納税資金の準備、延納・物納・土地売却等の確定を行います。
16.被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署に申告、納税を行います(相続開始後10ヶ月以内)。遺産分割が終わらない場合、法定相続分で相続したものとして申告します(ただし、未分割の場合、原則として配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例、農地の納税猶予の特例は受けることができません)。
17.延納や物納の申請をする場合、申告と同時に行います。
18.不動産の相続登記や預貯金・有価証券等の名義書換を行います。