‘遺産分割’

Q.相続税の納付は、必ず期限内に金銭によって行わなければならないのでしょうか?

 

A.相続税は、原則として、相続開始日の翌日より10ヶ月以内に金銭によって一括納付を行う必要があります。
しかしながら、相続人が相続税に見合った現金を所有していなかったり、相続財産に相続税の納付ができるほどの現金がなかったりする場合もあります。現金納付が難しい相続人のために、納税方法の例外として延納や物納の制度が存在します。
なお、物納制度については、物納の適否を短期間に判断する必要がありますので、生前の準備が不可欠であるといえます。

1.延納
担保提供を条件に、相続税の元金均等年払いによって延納を行うことが可能です。相続財産に占める不動産の割合に応じて最長20年の年賦払いが認められています。ただし、利子税も納める必要があります。

2.物納
相続税の納付が延納によっても難しい場合、一定の条件に該当するときには、国に相続財産を現物で納める物納によって相続税を納めることが認められています。この物納財産は、次のように順位が定められています。
・第一順位は国債、地方債、不動産、船舶
・第二順位は社債、株式、証券投資信託又は貸付信託の受益証券
・第三順位は動産
(1)物納の要件
物納によって納める場合、次のような条件に該当しなければなりません。
ア.金銭納付が困難であること
納税義務者が納期限に保有する現預金等より納税義務者とその親族の生活費3ヶ月分と事業継続に当面必要な運転資金を差し引いた額が、相続税額を下回るならば、金銭納付が困難であるということになります。
イ.物納許可基準
平成18年度の税制改正によって、物納不適格として定められている管理処分不適格財産(管理か処分を行うのに不適格な財産)を除く財産は、原則として物納が可能となりました。なお、物納適格財産が他に存在しない場合のみ物納が認められる財産を、物納劣後財産と呼びます。
ウ.物納申請書等を提出して税務署長の許可を得ること
物納を行おうとする相続税の納付期限までに、必要事項を記した物納申請書と物納手続関係書類を提出する必要があります。
なお、遺産分割が終わっていなかったり、分割に争いがあったりするものは、物納が不可能です。また、土地を物納するのであれば、基本的に家を建てることのできる土地である必要があり、隣地の人より境界確認時に印をもらうことになります。
(2)物納の手続
第一に、物納しようとする相続税の納期限か納めるべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に
物納手続関係書類を添えて提出しなければなりません。
ただし、物納申請期限までに物納手続関係書類を提出できない場合、「物納手続関係書類提出期限
延長届出書」を提出することで、1回につき3ヶ月を限度に、最長1年まで物納手続関係書類の提出期限を延長できます。
また、提出した物納手続関係書類に不備があったり、一部未提出のものがあったりした場合、そ
の訂正や提出を書面で請求されます。この通知を受け取った日の翌日より20日以内に訂正や提出がなされなかったときには、物納申請を取り下げたものとして扱われます。なお、この期限についても、「物納手続関係書類補完期限延長届出書」を提出することで、訂正等の請求があった日より、1回につき3ヶ月を限度に、最長1年まで延長可能です。
(3)物納の許可等までの審査期間
物納申請書が提出されたら、その物納申請に係る要件の調査結果を基に、税務署長が物納申請期
限より3ヶ月以内に許可か却下をします。ただし、申請財産の状況に応じ、許可か却下までの期間
は最長9ヶ月まで延長される可能性があります。
物納申請が却下された場合、却下の通知を受けた日の翌日より20日以内に、一度だけ他の財産
による物納の再申請を行うことができます。
(4)物納時の要点
物納をするに当たっては、次のことが要点となります。
・現金納付が難しいか否かについては、相続人ごとに判断されること
物納条件が整っているのであれば、いかなる財産を物納するかを選択する権限は納税者が有して
いること
・預金も借入金も存在するのであれば、借入返済のための預金であるとみなされ、預金はないもの
として扱われること
(5)貸宅地の物納
貸宅地は一般的に物納が不可能であると考えられがちです。しかし、管理処分不適格財産にも該
当しないことから、物納できるといえます。次の三つのことがその主たる条件とされています。
・契約書が存在すること
・固定資産税等相当額の2~3倍の地代を得ていること
・底地を物納することにつき借地人の同意を得られること

3.延納と物納の切替え
物納の申請を取り下げて延納に切り替えることは可能です。
一方、延納中であるものにつき延納による納付が難しくなったら、申請期限より10年以内であれば延納より物納に切り替えることが可能です。この場合においては、物納財産の収納価額は、その物納に係る申請時の価額によって収納されることになります。

Q.相続開始後に税の負担を軽くするためにできる対策は、何かありますか?

 

A.相続開始後に税負担を軽減するためにできることを以下に述べます。

1.配偶者の税額の軽減を利用する
配偶者の税額の軽減というのは、被相続人の民法上の配偶者(内縁関係の人は対象外です)が取得した財産は、1億6,000万円と法定相続分のどちらか多額の金額までは、相続税がかからないという制度です。配偶者への優遇措置が設けられているのです。

2.二次相続まで考慮して遺産分割を行う
配偶者は預金と自宅をメインに相続します。相続した預金を毎年110万円ずつ贈与することも可能であり、そのように贈与を行うことで二次相続発生時における配偶者の財産が減少します。

3.分割の仕方によって土地の評価が低くなる
土地は、所有かつ利用により評価を行いますので、分割の仕方によって評価額を引き下げることが可能です。ただし、土地の有効活用が図られていない場合には不合理分割の認定を受けることがあります。
例えば、兄と弟で半分ずつ共有相続するより、二つに分割して相続する方が、大幅に土地の評価額が低くなるケースもあります。

4.小規模宅地等の特例の適用を受けた土地は子が相続する
居住用宅地につき240㎡まで(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については330㎡まで)、事業用宅地につき400㎡まで80%の評価減を、貸地等につき200㎡まで50%の評価減を受けることができます。配偶者が相続財産の半分までは課税されないことから、配偶者がこの小規模宅地を相続した場合には、評価減の効果が半減することになってしまいます。したがって、小規模宅地等の特例の適用を受けることができる子が、その土地を相続するといいと思われます。

5.売却予定の不動産は共有で相続する
居住用財産を売った場合には、譲渡所得より3,000万円まで控除ができる特例が存在します。
例えば、母と息子の2人の共有名義で相続しかつ同居している自宅を売ったのであれば、上記の3,000万円控除を母と息子がそれぞれ利用できます。それゆえ、譲渡所得は2人で計6,000万円まで非課税とされます。相続税申告期限後に売却を行いましょう。

6.相続税が取得費に加算される特例を利用する
相続によって取得した財産を、相続税の申告期限の翌日以降3年を経過する日までに譲渡した場合、譲渡税が軽減されることがあります。

Q.将来の相続に向けて生前にできる対策は、何かありますか?

 

A.将来の相続に向けて相続開始前にできることを以下に述べます。

1.暦年課税贈与で相続財産より分離する
110万円の基礎控除を活用し、毎年手堅く子に贈与していくといいでしょう。暦年課税贈与については、贈与者が死去した際に相続税を算出するに当たり、原則として贈与財産の価額を相続財産の価額に加算する必要はありません。
ちなみに、相続時精算課税贈与の場合は、特別控除額は2,500万円ですが、贈与財産は贈与時の価額で相続税の課税財産に算入されることになります。

2.暦年課税贈与の配偶者控除を利用して自宅を贈与する
婚姻期間が20年以上である場合において、夫婦間で居住用不動産か居住用不動産を取得するための金銭の贈与がなされたときには、基礎控除(110万円)に加えて配偶者控除(2,000万円)の適用を受けることができます。

3.収益物件を贈与する
家賃収入を得られる建物を贈与した場合には、家賃が子の収入となります。なお、贈与するのは建物のみで構わず、敷地を贈与しなければならないわけではありません。
贈与金額は、固定資産税評価額の70%となり、固定資産税納税通知書で確認することが可能です。
・贈与金額が少額となるのであれば、暦年課税贈与を行います。
・贈与金額が多額となるのであれば、精算課税贈与を行います(将来相続財産に合算されるものの、相続開始までの家賃を子に帰属させることが可能です)。
・上記のいずれでもないのであれば、複数年に分けて暦年課税贈与(共有持分の贈与)を行います。

4.退職金支給で評価を下げて自社株を贈与する
オーナー社長の引退や老齢で相続の時期が近づいている場合には、多額の退職金を社長に支給して大幅に利益を圧縮し、自社株式の評価額を引き下げます。株価が下がったところで、相続時精算課税制度を用いて後継者に贈与します。

5.小規模宅地等の特例の適用要件を確認する
小規模宅地等の特例というのは、居住用宅地につき240㎡まで(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については330㎡まで)、事業用宅地につき400㎡まで80%の評価減を、貸地等につき200㎡まで50%の評価減を受けることができるという制度です。
相続開始前に、上記の特例の適用要件を満たしておくといいでしょう。

6.孫を養子にする
養子が一人増えたら、基礎控除が1,000万円(平成27年1月1日以降に相続か遺贈によって取得する財産に係る相続税については600万円)増加するほか、適用税率が下がることがあります。そして、養子にしても相続財産を分配しなければならないわけではありません。法定相続人の数を増やすことに意義があるのです(法定相続人の数に含める養子の数は、一定の人数までとされています)。
また、孫を養子にした場合、相続税を1代飛ばすことができるというメリットもあります。
なお、孫を養子にした場合のデメリットは、孫の相続税額が2割加算となることです。

7.預金ではなく生命保険で残す
生命保険金は指定した受取人の固有の財産ですので遺産分割の対象とはならず、確実に受取人のものとなります。さらに、生命保険金は、500万円に法定相続人の数を乗じた額まで非課税とされています。

8.会社分割で円滑に事業承継を行う
後継者が2人存在する場合には、生前に会社を分割し、兄弟でトラブルになることにないようにしましょう。
例えば、創業者がA社の株を100%有していて、A社はa事業とb事業を行っている場合、按分型の新設分割によってB社を設立し、B社にb事業を移します。この時点でA社とB社の株を100%有している創業者は、両者の経営を見つつ、生前贈与、親子間譲渡、遺言によって、A社株式を長男に、B社株式を次男に取得させます。

9.物納の条件整備をしておく
(1)測量等を行っておく
物納申請のためでも、相続発生後に要した測量費用、境界確認費用等に、相続税の債務控除は適用されません。相続が発生する前に行っておくと、相続財産がその費用分減少しますので、相続税の負担もその分軽減されます。
(2)隣地の人と仲良くしておく
物納時には、隣地の人より境界確認の印をもらうことになりますので、隣地の人々とは日頃より良好な関係を築いておくことが重要です。

Q.持分の定めのある社団医療法人の理事長は、出資持分に係る相続対策を取る必要があるのか否かについて教えてください。

 

A.遺産分割をめぐるトラブルや重い相続税の負担が、病院が存続の可否を左右する場合もあることから、前もって相続税に関するシミュレーションをし、納税資金の確保等も含めた対策を取っておかなければなりません。

1.重要課題といえる出資持分の承継
多くの場合、持分の定めのある社団法人の理事長の出資持分の評価は高額となりますので、後継者等の相続人の相続税への影響が小さくありません。したがって、理事長にとって、後継者に対する出資持分の承継は大きな課題といえます。
ゆえに、後継者等の相続人が負担する相続税額がどの程度になるかを事前に把握して、長期間にわたり相続税対策の検討を行わなければなりません。

2.理事長に相続が生じるまでに確かめる事項
理事長個人の相続財産や債務の全体像を把握し、相続税納税資金がどの程度必要であるかということや必要額の有無について確認を行います。また、後継者等の後継者に対していかに財産を分割するかについて検討を行います。例えば前もって、次に掲げることの確認をします。
(1)医業用不動産(土地、建物)の所有者は理事長であるか。
相続財産は相続税評価額によって評価を行いますが、一定の要件に合致する土地であるなら、最高80%の評価減となる「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用を受けることができます。
(2)理事長の出資持分はどのくらいの評価となるか。
後継者が理事長の出資持分を承継していくと思われますので、その出資持分がどの程度の評価となるかを分かっておくことは大切です。
(3)理事長から医療法人への貸付金は存在するか。
理事長から医療法人への貸付金(医療法人にとっては借入金)は、理事長個人の相続財産ということになります。
(4)理事長個人の財産のうちで換金できる財産はどの程度存在するか。
後継者以外の相続人への分割財産や相続税納税資金を確保できるかを確認します。

3.前もって出資持分の評価をすることの重要性
理事長の相続財産のうちで、医療法人の出資持分は非常に重要なものです。出資持分は相続時点に
おける評価額で評価されますが、医療法人については法律で剰余金の配当が禁じられていますから、
長年にわたって利益が内部に蓄積している法人であれば、相続時点での出資持分の評価額が設立当初
の出資額を大きく上回ることも多いといえます。
そして、出資持分の評価額が高くなって、後継者に医業承継財産が集中すると、出資持分には換金
性がありませんから、後継者となる相続人の納税資金が不足してしまう場合もあります。
ゆえに、円滑に後継者への事業承継を行うには、現状における医療法人の出資持分の評価をした上で、後継者がどの程度の相続税を負担することになるかをシミュレーションすることが必要となります。

4.出資持分の評価が高額である場合の相続対策
出資持分の評価額が高額である場合、後継者の納税の負担は大きくなると思われます。したがって、前もって出資持分の評価を引き下げて、出資持分の一部を後継者に移転させることで相続財産そのものを理事長から切り離すこと、また、どのようにすれば納税資金を確保できるかに関して検討を重ねることが重要になります。
(1)出資持分の評価を下げる方法の例
理事長の勇退に伴う退職金の支払いは、出資持分の評価を下げるための方法の一つといえます。 退職金を支払うと多額の経費が生じますので、医療法人の純資産が減少します。純資産の減少により出資持分の評価は下がりますので、その時期に出資持分を後継者に移転しましょう。譲与と贈与という二つの移転方法が存在します。
(2)納税資金を確保する方法の例
後継者が既に医療法人の理事等である場合は、不相当に高額な役員報酬ではない範囲内で、その後の納税資金をある程度意識した役員報酬の設定を行うことが大切です。
そのほか、生命保険を活用し、理事長に相続が生じた際に医療法人が遺族(後継者)に対して支給する死亡退職金を納税資金とするという方法等が挙げられます。

私は自宅の売却を考えています。しかし、敷地は平成18年1月に父からの相続により手に入れたもので、家屋については同年10月に自己資金を使用して建てたものです。  この場合には、譲渡所得の計算する上で、取得費についてはいくらになるのでしょうか。また、敷地を所有していた期間について計算する時には、いつからが取得した日に当たるのですか。

 

まず敷地の取得費についてですが、原則として、被相続人に当たる父親がその敷地を手に入れた時の購入代金や取得に必要となった金額に、改良費・設備費を加えて出された合計金額がそれに当たります。また、家屋の取得費についですが、建築代金などその他諸々の合計金額から償却相当額を差し引きして算出された金額がそれに当たります。
また、敷地を所有していた期間の計算する場合につきましては、相続により敷地を手に入れた日の平成18年1月からではなく、被相続人に当たります父親が敷地を手に入れた日から計算することとなります。

【解説】
1、取得費の概要
資産の取得費とは、購入代金及び建築代金や改良費、設備費、改良費などの費用の他にも、取得費に含まれる主なものは、以下の通りです。ただし、不動産所得や事業所得などの必要経費に算入された金額につきましては、資産の取得費に含まれません。
・土地・建物の購入(贈与・相続もしくは遺贈により手に入れた物も含めます)を行った場合に納めることとなった登録免許税(登録費用も含めます)、特別土地保有税、不動産取得税、印紙税
・借主がいる土地、建物を購入する時に、借主に対して支払いをして立ち退かせるための立退料
・土地の埋め立て及び土盛り・地ならしをすることのために支払いを行った造成費用
・土地の測量費
・所有権及びそれ以外の確保のために要した訴訟費用(相続財産に当たる土地を遺産分割するために要した訴訟費用は除外します)
・購入した当初から土地の利用が目的と予見された場合の建物購入代金や取り壊しにかかった費用
・土地・建物を購入する時に借り入れをした資金の利子の内、その土地、建物を実際に利用開始する日までの期間に対応する部分の利子
・既に締結している土地など諸々の購入契約を解除した後に、ほかの物件の取得に変更をした場合に支払いが発生する違約金
また、資産の取得費が明らかでない場合にある、もしくは実際に発生する取得費が譲渡価格の5%未満の場合には、収入金額の5%を取得費にする事が可能です。

2、家屋の取得費
自宅として使かわれていた家屋を売却する場合の取得費に関しては、次のように算出します。
建物の取得価格-償却費相当額=建物の取得費
また、償却費相当額は、次のように計算します。
建物の取得価格×0.9×償却率*×経過年数=償却費相当額
*同種の減価償却資産の耐用年数×1,5で償却率を決めます。

3、敷地の所有期間
所有期間とは、土地及び建物などを手に入れた日から所有し続けていた期間のことを指します。この場合につきましては、相続及び贈与によって取得したものは、原則として、被相続人もしくは贈与者が取得された日から算出することになります。

父に相続が生じましたが、母は既に他界しているので相続人は私と妹が該当します。父の所有していた財産は自宅の不動産(相続税評価額は8,000万円)と保険金(3,000万円)です。妹とは自宅についての遺産分割は父と同居していた私が相続することで合意しました。しかし、保険金の受取人についても私が相続人であったため、妹は少しの財産も相続できません。妹と不動産を共有したくはありませんが、何かいい解決策はありませんか。

 

解決の方法の一つに代償分割という方法がございます。代償分割とは遺産分割の方法であり、相続人の1人もしくは数人が相続財産を手に入れて、その相続財産を手に入れた人が別の相続人に代償金などを支払う方法を指していいます。
あなたの場合には、自宅の不動産の全て及び保険金を手に入れることを見返りとして、妹に対して代償金を支払うという方法が考えられます。

【解説】
1、不動産を共有で相続する場合
遺産分割に関して、相続財産が不動産だけの場合には、その不動産を共有持分として相続することが可能になります。しかし、兄弟と不動産を共有した場合には、売却などの処分につきましても共有者の同意を得る必要が発生し、また、この先財産が細分化されていく場合もございます。
仮に、妹とあなたがご自宅の不動産につきまして相続を行った場合、ご自宅の立て替え・買い換えをされる場合は、全て妹の同意が必要になってきます。

2、小規模宅地等の特例
相続税の計算の上で、小規模である宅地などの特例の適用につきましては、その不動産の取得者1人1人に判定を行うため、一定の用件を満たさない相続人がその不動産を相続したとしても適用を受けられない可能性も考えられます。また、同居する親族がご自宅を相続された場合、一定の要件を満たすことで、240㎡まで80%の減額を受けることが可能になります。
仮に、妹とあなたがご自宅である不動産を1/2ずつを共有のものとして相続し、一定の用件を満たすことができた場合、あなたの相続する持分だけが80%の減額の対象になり、妹が相続する持分について特例は適用されません。
具体的に計算した場合、以下のようになります。
①全ての相続をあなたがした場合の相続税の評価額の計算
8,000万円×(1-80%)=1,600万円
②妹とあなたが1/2ずつ共有で相続された場合の相続税の評価額の計算
あなたの持分:8,000万円×1/2×(1-80%)=800万円
妹の持分:8,000万円×1/2=4,000万円
合計:4,800万円

3、代償分割
あなたがご自宅である不動産について全てを相続することによって、この先の処分もご自身だけの判断で行うことが可能で、小規模な宅地等の特例の適用がされることができます。
妹につきましてはその見返りとして、保険金及びご自身の現預金など諸々から代償金を支払えば円滑に遺産分割を行うことができます。
留意点は次のとおりです。
①代償分割を行う予定して話を進めている場合、生命保険金などで代償金に見合った財産を生前から用意しておく必要があります。
②相続によって手に入れた不動産を売却した上でその代金を分割した場合には換価分割と考えられますので、売却についての所得税などの負担が生じる場合がでてきます。
③代償財産として交付する財産について、その財産が交付する相続人の所有している不動産の場合には、その交付した時の時価でその不動産を売却したとみなし、所得税などが課せられます。

相続人に変動がある場合の取り扱いについてが、わかりません。

 

<解答>
2005年4月以降につきましては、A・BにつきましてはCへ価額弁償を支払った日から4ヶ月以内に更正の請求が可能になり、Cについては税務署によって増額更正を受ける可能性が存在している。

<解説>
(1) 東京高裁2004年11月27日判決概要
実は、これと同様の内容の案件がかつて争われたことがあった。それが東京高裁2004年11月27日の判決である。その内容については、1988年3月に三兄弟が相続税の期限内申告を行うことになった。そのほぼ1年後の1990年1月に突然、裁判所の認知判決によって相続人である新たな兄弟(認知された子供)が現れてしまった。その三兄弟と認知された子供は、裁判で争い、結局遺産分割に代わるものとして、三兄弟から認知された子供に約5000万円の金銭を支払えとの判決が出されることになった。
そこで三兄弟については、その支払判決から4ヶ月以内に更正の請求を行い、相続税の還付を請求することにした。
更正の請求を受けた所轄税務署については、その日から4ヶ月以内に、三兄弟の裏腹の関係で認知された子供に相続税を払えという「増額更正」を行うことになった。
しかし、認知された子供には、増額更正が可能である期限については「認知判決が確定した日」平成2年一月から4ヶ月以内であるとして争いが生じ、東京地裁2001年5月25日判決、東京高裁2002年11月27日判決の両方において、認知された子供の主張が通ることになった。

(2) 判決の考え方
東京地裁でも東京高裁においても、「相続税法第32条二号によって認知判決確定の日=1990年1月9日から4ヶ月以内」もしくは、「国税通則法23条(2)より支払判決確定の日=1996年11月26日から2ヶ月以内」が更正の請求の期限であると判示された。
したがって、課税庁が行いました相続税法35条(3)に基づいている認知された子供への増額更正も無効であるとして、取り消されてしまった。

(3) 平成15年改正
つまり、上記(2)のケースにおいては、認知された子供への課税もれが生じてしまうことになってしまった。そこで、その部分を補う目的のために相続税法の改正が行われることになった。
つまり、相続税法第32条五号によって、民法910条(分割後の否認知者の請求)に基づいている請求によって弁済額が確定した場合において、さらに条件付き・期限付き遺贈の条件が成就することになり、期限が到来した場合においても更正の請求事由とみなすと改正されることになった。

遺産分割のやり直しと贈与税についてが、わかりません。

 

<解答>
単純な遺産分割のやり直しは贈与になってしまうようだが、このような場合については贈与税の課税については行われることはない。

<解説>
(1) 単純な遺産分割のやり直しは贈与になる。
遺産分割(相続において)については、その分割方法が代償分割、換価分割、もしくは現物分割であるか、また、その分割の手続きについてが、審判、遺産分割協議、あるいは調停によって分割であるかどうかを問われることはなく、どのような分割であったとしても、有効に成立することができれば一件落着となる。
しかし、一旦有効に成立を行った遺産分割について、遺産分割のやり直しとして再分配を行った場合につきましては、その再分配によって取得できた財産については、先程述べた「分割によって取得した財産」には、該当することはないと考えられる。
つまり、一度取得を、各相続人が行った財産をさらに贈与によって、移転されたとみなされる。そこに、贈与税が課税されることになるため、注意しなければならない。これが大原則となる(相続税基本通達19の2−8)。

(2) 遺産分割が無効であったら、取消されるべき原因によって取り消された場合
では、当初の遺産分割が無効であったり、取消されるべき原因によって取り消されたりした場合についてはどうなるのだろうか?
単純遺産分割のやり直しについては、贈与税の対象になるという考え方については、遺産分割が法律上、有効に成立されたものであるということを前提にしたものになっている。したがって、当初の遺産分割が無効であったり、取り消されるべき原因によって取り消されたりした場合については、当初の遺産分割による財産の帰属自体に問題が生じていることになるため、そのやり直しが本来の遺産分割であると言える。ですから、このような場合については、贈与税等の課税関係が生じることはないと考えられる。

(3) 遺産分割の合意解除
では、相続人全員で、遺産分割を合意し、解除した場合についてはどうなるのだろうか?
過去の判例においては、遺産分割協議が遺産の帰属を相続時に遡及することにし、創設時に定める一種特別の合意であるという特殊な正確があるということ、また、遡及を有している遺産の再分配を認めると法的安定性が著しく害されてしまうといった理由により、民法541条等による法定解除が許されることはないと考えられていた。しかし、1990年の最高裁の判決によって「共同相続人はすでに成立している遺産分割について、その全部あるいは一部を全員の合意によって解除したうえ、改めまして分割協議を成立させることができる」という判断を示した(最高裁1990年9月27日判決)。

(4) 遺産の再分割時の注意点
裁判による解除であったとしても、合意解除であっても無条件で再分配が認められるわけではなく、(1)裁判上の争いがなれ合い的な訴訟であるかどうか、(2)裁判所の和解勧告によって当初の遺産分割が無効であることを確認した事実経過的な内容、(3)合意を解除した時期・理由が重視されるものと考えられている。

預金の払い戻しと配偶者の税額軽減についてが、わかりません。

 

<解答>
実際には、払い戻しを受けているため、「分割された財産」として「配偶者の税額軽減」の適用があるだろう(平成12.6.30裁決より)。

<解説>
(1) 法定の取り扱い
遺産については、遺言や遺産分割により、関係者や相続人に分配されるのが原則となる。ただし、預金などの可分債権においては、分割されていなかったとしても相続人が法定相続分に応じて、取得する権利が存在している。つまり、分割を行っていないとしても取得する権利が存在しているため、分割の対象から除かれるということになる。この考え方については昭和29.4.8、昭和34.6.19の最高裁判所の判決によるものになっている。
しかし、家庭裁判所の遺産分割審判においては、上記の最高裁判決を踏まえた上で、可分債権も遺産分割の対象になる取り扱いが定着していることになるため、判断は分かれるだろう。
つまり、預金などの可分債権については、最高裁判所におきましては遺産分割の対象とはならないけれども、家庭裁判所の遺産分割審判におきましては遺産分割の対象になるといえる。

(2) 配偶者の税額軽減の取り扱い
配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)は、「分割されてはいない財産」には適用されることはない。では、分割されていない預金については、配偶者の税額軽減の対象にはなるのだろうか?
(1)にあるように可分債権については、最高裁判所と家庭裁判所で取り扱いが異なることになる。そのため、可分債権であることを理由に、この預金が「分割されていない財産」が除かれるとされることには無理があるだろう。
しかし、本問の場合においては、分割は行われていないようだが、配偶者については実際に法定相続分の預金の払い戻しを受けている。配偶者については払い戻しを受けたことにより、その預金の払い戻しを受けている。配偶者については、払い戻しを受けたことによって、その預金の実質的な支配者になる。ですから「分割された財産」と同じ効力を持つことになる。そのため、この預金については「分割されていない財産」から除かれることになり、分割された財産として配偶者の税額軽減の適用を受けることが可能になる。

次に配偶者の税額軽減の適用時期を考えてみる。申告期限前に払い戻しを受けた場合においては、通常どおり配偶者の税額軽減を適用しまして、相続税の申告を行うことになるだろう。申告期限後に払い戻しを受けた場合については、払い戻しを受けた日から4ヶ月以内に行う更正の請求によって、配偶者の税額軽減を適用することになり、税額を取り戻すことが可能になる。ただし、申告期限から3年を経過した日以後においては、配偶者の税額軽減の適用自体がなくなることになるため、注意が必要になる(訴訟があった場合などは除かれることになる。)。

遺言書と異なる分割をした場合についてが、わかりません。

 

<解答>
原則、遺言にしたがい、分割するのが一般的になるが、相続人及び受遺者が、その遺言を放棄し、全員の同意によりまして分割することになるため、贈与税等の課税関係はないと考えられる。

<解説>
(1) 民法上の取り扱い
相続財産には権利だけではなく、義務も含まれることになるため、遺言の自由が一般的となる。かつ、相続を拒否する自由を認められなければならず、民法では遺言を放棄することが明確に認められている(民法986条(一))。
遺言と異なっている遺産分割を行った場合において、相続人及び受遺者が一旦包括遺贈の放棄を行い、未分割状態に、その財産を戻した上で分割協議をしたものと考えられる。
民法において、相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に、相続人については放棄の手続き(家庭裁判所に申述)をしなければならないと考えられている(民法915条(二))。しかし、包括受遺者についても、この規定が準用されることになる(コンメンタールp6053 包括遺贈)。

(2) 実務上の取り扱い
実務上においては、分割を遺言書とは異なっている内容で、希望する事例はかなり多くなっている。また、民法上においては、上記のように放棄の手続きをとらなければならないと考えられるが、実務上は「事実上の放棄」という点に注目し、上記のような放棄の手続きをする必要がない。遺言書の内容がどのようなものであったとしても、相続人および受遺者全員の同意によって分割されることになるわけであるため、その遺産分割は有効に成立することになって、贈与税の問題は起こらないと考えられている。

(3) 受遺者に相続人以外の者がいた場合
受遺者に対して、相続人以外の人がいた場合において、その相続人以外の人を加え、分割した場合はどうなるのだろうか?
これについては、一旦財産を、相続人が取得し、その中から相続人以外の人に対して贈与したこととなり、贈与税が課税されることになる。遺言と異なる割合、手法によって、法定相続人以外の者に財産を配分する場合においては注意しなければならない。

(4) 遺言執行者が存在している場合
遺産執行者については、相続財産の完治その他遺言の執行について必要な一切の行為を行う権利・義務を有している(民法1012条、1013条)ので、遺言執行者の同意を得られなかった場合については、遺言と異なる分割は不可能になる。
このような事態を避ける目的のためにも、遺言執行者は、原則相続人とするのがよいと考えられる。

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